軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

チュートリアル

新しい入居者が入った時には、まずやることがある。

「おはよっ! 九重!」

「ちっす!」

エントランスを出たところにいたのは、 綾瀬采香(あやせあやか) と 久我悠斗(くが ゆうと) だった。

昨日とは違い、埃っぽい 襤褸(ぼろ) ではなく真新しい清潔な服を着て底の破れてない靴を履いている。

「やる気あるなふたりとも」

「そりゃそうよ、見てよこの清潔感! きれいで臭わないって、素晴らしいことだってうちは今思い知ってるところ」

「ほんとにな、前のあの倉庫はカビくせーし埃っぽいし汗くせーし。マジでこのマンション神。九重お前も神」

昨日五人が入居したわけだけど、もちろん彼らは最初はMPを持っていない。

となると、衣食どっちも手に入れられないが、MP溜まるまで無しはやっぱりキツいってことで、MPを貸した。

以前に話した、俺が管理してるマンション全員で色々やるためのMPのウォレット。そこから当座の生活資金を渡した。

しかも無利子無期限、余裕が出たら補填してくれればいいだ、こんな好条件の貸付世の中にないだろう。

そのMPで二人は昨日と今日の食事をとり、衣服も新しくそろえて今日の探索の準備を整えた。

「神じゃないけど、コンディションがいいなら良かった。1日中歩き回って、シャベルで地面掘ったり結構疲れるから」

「あんなマンションで寝たら秒で全快するぜ。俺達がどこで寝起きしてたって話しだ、なあ綾瀬」

「そうそう、あそこで慣れてたんだからさうちらは。余裕で行ける。早く行くよ九重」

二人はさっさと歩き出した。

これは俺がチュートリアルなんてする必要なかったかもな、と思いつつ俺は二人についていった。

久我と綾瀬は俺が魔石入手チュートリアルをしているが、他の人は他の住民が教えることになっている。特に集まって割り振りを決めたという大げさなものではなく、彼らをマンションに招いて、部屋を選んでる時に顔をあわせた住民が、その場の流れでやることになった形だ。

そちらも今頃魔石を集めているだろう。

こちらは、北西方面に向かって進んでいた。魔獣の多い東や危険人物の多い南と違い比較的安全な方面だ。

その分魔石もあまり多くはないけれど、まずは稼ぎより安全性重視で。

「うちらってこの辺来るのって初めてだよねー」

「俺達が閉じ込められてたところはもっと南? なのか? なんかマンションの入口んとこに地図あったけど」

「そうだな、だからあまり南には俺達はいかない。変なやつとあいたくないから」

「それ、正解……でも、風景の見た目は、そんな変わんないんだね」

この辺はアパートが多い。

住宅、アパート、コンビニ、個人経営のレストラン、個人経営の理髪店、みたいなちょっと市街地の中心から外れたところでよく見るものがある。

あると言っても結局は倒壊しているので、景色はどこも同じようなものになってしまうが。

違うものと言えば……。

「お、公園あんじゃん! 見てみようぜ」

久我が走っていった先には、広いスペースがあり、滑り台やジャングルジムがいまだ健在だった。

この辺には大小色々の公園も結構あるようだ。

俺達が見つけた公園は、30m四方くらいの広さだろうか、そこそこの規模で、遊具もいくつかある。

幸い、前に行った流砂や重力異常やらがある異常空間になっていた自然公園とは違い、ただの滅んだ公園なのは一安心といったところだ。

「うっわ、この滑り台エッグ」

久我が顔をしかめてみている滑り台の斜面には、トゲトゲした形の魔石の結晶がいくつも生えていた。

ここで滑ると尻がずたずたになるのは間違いない。恐ろしいトラップだな。

「遊べはしないけど稼ぐチャンス! ってことでしょ? 大家さん?」

「ああ、MPの元がたくさんあってラッキーだ。取っていこう。道具は持ってきてる」

綾瀬にシャベルを渡すと、結晶の根本に当てて、シャベルを梃子のようにしてぐいっと魔石の結晶を引き剥がした。

「うわっ、またトラップだよ」

どうやら、魔石結晶は斜面のステンレスと一体化していたようで、魔石をとったあとには穴がぽっかりと空いていた。滑っても刺さらないが、穴に落ちることになるな今度は。

ともあれ、俺達はすべり台で遊ぶ年でもない。滑り台を穴だらけにしながら、魔石を取っていった。

綾瀬も久我も、南の奴らにこき使われていた頃の経験があるからか、魔石を採取する手際はよかった。

ジャングルジムの魔石もあっさりと回収、他にも公園にいくつかあった魔石の塊も簡単に回収しきることができた。

一応ついてきているものの、俺がチュートリアルすることもなさそうだな。

二人とも全然うまいことやっている、俺の役目は土地勘くらいだ。

「余裕だなふたりとも、その調子でこの辺の魔石を集めていこう」

俺がそう言った直後、綾瀬が口元で人差し指をたてた。

「どうした綾瀬?」

「しっ………………魔獣が近くにいる」

綾瀬が目を閉じて集中している。ソナー――音で周囲の状況を判別するマホウだ。

「3mくらいの長細いうねうねしたやつがガレキの下をゆっくり這ってきてるね。数は2体」

「うえ、なんかキモい見た目してそうだな」

「ぺたぺた音させながら歩いてるし……大きいトカゲみたいなやつだと思うわ」

「俺爬虫類嫌いなんだよなあ、とんずらここうぜ? 俺のフォグメーカーで!」

久我が手をパンパンと叩くと、あわせて手のひらの隙間から白い蒸気が吹き出してきた。

「これは……霧か」

「そう、俺のマホウは霧を作りだすんだ。濃さとか範囲はそれなりに調整できるんだが、見つかりたくないっつーか見たくないから最強に濃い霧にしてやる」

手のひらから湧き出す霧はどんどん勢いを増し、すぐに俺達の周りは視界が50cmくらいしかなくなった。お互いの姿すらぼんやりとしか見えないほどだ。

こんな濃い霧は人生で一回だけ、岐阜に旅行に行った時の山の麓で経験したくらいだな。

「今のうちにずらかろうぜ、すべり台から魔石を引っ剥がせるのに、何もオオトカゲと戦う必要なんてないんだしよ」

今は特別稼ぎたいわけでもないし、二人のマホウも戦闘向きじゃないし、そうすることにした。

霧の中を移動して公園から出ていくと、久我が綾瀬に尋ねる。

「そのトカゲどもはどうしてる?」

「今は霧の中にいるね、さっきうちらがいた辺りで、あっちを向いたりこっちを向いたりきょろきょろしてる」

「はははっ、トカゲの頭じゃ俺の頭脳プレーは見抜けなかったか。じゃあ九重、別の場所でまた魔石探そうや」

音で視る能力と霧を作る能力。

この二人のマホウ、なかなか便利だ。

安全に探索するためにはかなり使えるぞ。

思わぬ心強い能力にラッキーだなと思いつつ、俺達は安全に魔石を引き続き集めていった。