軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

働く雪代

「家賃を払えるように頑張れー」

「ちょっと、邪心を入れないで! 集中してるんだから」

近くにあるガレキの中からなるべく尖ったものを探し、雪代がそれを念動力でふわりと持ち上げた。

そしてマンションの壁にくっついている紫色の結晶の根元を、遠隔操作でガリガリと削っていく。

「20~30mくらいかな」

「うん、動かせるのはこれが限界。限界ギリギリだと神経疲れるんだよ」

「へー。どんな感じなの」

「限界まで引き延ばした輪ゴムがパチンってならないように慎重に摘まんでるみたいな、そんな感じ」

なるほど、魔法の感覚ってよくわからないけど、魔力の糸みたいなので繋がって動かしてるようなイメージなのか。お、3割削れたな。あと7割、おっと。

「ちょっとストップ。速くやりすぎかも」

「あ、うん。わかった」

俺はいったん作業を制止する。

震動でパラパラとマンションの外壁のヒビから建材の欠片が落ちてきているのを見たからだ。

あまり大きな衝撃を与えると倒壊しかねない。一応傾いてる方と別方向からやってるから倒れても潰されはしないが、砕けた破片が飛んできたりしたら致命傷だからな。

「……よし、落ち着いたかな。じゃあ」

「ちゃんと見ててね! 危なくなったら即教えてね!?」

「任せて、視力両目1.2だから」

「まあまあいいくらいのやめて?」

ゆっくり根元を削る作業を再開。

徐々に魔石の結晶が壁から離れていき、ついに完全に切断され落下した。

よし走るぞ!

俺と雪代はその場から全力疾走して離れる。

50mほど走ってから、マンションの様子をうかがう。

どうだ?

いけるか?

「……だいじょぶそ?」

「多分、倒れそうな気配はない」

さらに一分ほど待ったけどマンションの動きはないので、多分大丈夫だろう。離れたのは、魔石が落ちた時の衝撃で倒れかけてるマンションが倒壊した時の対策だったんだけれど、何事もなくてよかった。

それから俺と雪代は魔石の落下地点へと向かい回収する。落ちた時の衝撃でいくつかに割れていたが、それでもかなり大きい。

「よいしょ……っと。これで全部拾ったかな?」と地面に置いたバックパックに魔石をいれる雪代。俺も最後の一個をいれて、うん、周囲にはもうないな。

「思ったより大きかったねー」

「高いところにあったからな、目測よりさらに大物だった。雪代の力いいね。これ使ったら富豪になれる」

「私も家賃払って生活が安泰だよ。よきよき。でも疲れたー。ちょっといったん帰って休憩しよ」

俺たちは俺の【マンション】へと戻った。こっちは崩れてなくて安心だ。やっぱりマンションは中に入れなきゃ意味がない。

「雪代、あの力を使うのって体力使うんだ?」

「もちもち、あー、ちょっと違うかも? 体力っていうか……体力みたいなものなんだけど、単純に体力とは違って頭の奥がふらふらっとなるというか、つまり魂が怠い」

「なるほど魂が」

「あ、見て見て、どんどん数字が上がってく!」

雪代はリサイクルボックスに魔石をどんどん投入していき、モニターに表示されるMPが増えるのを目を輝かせて見ている。

『MP100……200……400……800……』

『MP1540』

「わー! 1000超えたー」

「喜んでるところ悪いけど折半だから家賃払えないですよ」

「知ってるよ! 水差し野郎がよー」

うぐ、肘で攻撃してこないでくれ。

「でもこの調子ならすぐたまりそう。しかもさらに多く集めたらそれは通販っていうので、あのリュックとかお弁当とか買えるんでしょ?」

「そう。他にも冷蔵庫とかエアコンとか色々ある」

「おおおおおー。夢が広がりますなあ。よーし、集めに行くぞー九重さん」

「疲れたから休むって戻ってきたんじゃなかったっけ」

「もう元気になったよ。余裕」

「やっぱり若者は違うな」

「おじさん頑張って。あははー」

テンションの上がった雪代とともに、俺たちは再び魔石集めに出発した。

「今度こそ完全に疲れたよー」

「もうだいぶ暗いし、今日はここまでかな」

「本当に暗いよね、電気がないと。夜怖すぎ」

魔石を集めているうちに日が暮れていた。

今はもう太陽は西に沈み、残った夕焼けが夜空に侵食されつつある。

昼間はそうでもないが、暗くなってくると滅びた街はかなり怖いな。雪代の言うとおり、まったく灯りがないっていうのは現代人にとってほとんど馴染みのない状況だ。それこそ山奥でも行かない限り。

結構遅い時間まで雪代と魔石集めをしていた。

取りにくい場所の魔石は雪代のマホウを使って取れたので、バックパックとあわせてさらなる効率アップ。

あの時水とご飯をあげた分以上のメリットがもうあった。情けは人のためならずという諺は世界が終わった後でも有効らしい。

しかし……思ったほどは背中のバックパックが重くなっていない。

「魔獣ってあんなにたくさんいるものなのか」

北や南も魔石がないか行ってみたんだが、しかしそこらは東と同じように早々に魔獣の姿を見かけて先に進めず。西は他に比べたら遠くまで行けたけどやはり魔獣の姿が。

そのせいで魔石採取の足をあまり伸ばせなかった。

「場所によりけりかな? 私もさあ、歩き回ってる時に、食べ物ありそうな無事なお店があったのに、魔獣がそこにいたせいで食べられなかったりしたし」

なるほどな。

やっぱり魔獣をなんとかできないと全てにおいて困るな。

今は魔石で生きていけてるけれど、行動範囲を広げられなければ、魔石を取り尽くした時が飢え死にの時になる。どうしたって魔獣を倒すことは必要だ。

マンションに戻った俺たちは魔石をリサイクルボックスに投入。

今度は1240MPを入手した。

「よっしゃー、今度こそ家賃に届いたよ。晴れて自由の身!」と雪代が喜んでいるが、俺は大家特権で家賃を払わなくていいので1500MPくらいを丸ごと使える。

武器、欲しいな。

「早速家賃払って身軽になろっと」雪代は自室の端末を操作するために自室に戻っていった。俺も武器を見るために101号室に戻ろう。

戻ってすぐに端末を操作する。

まずMPを確認すると【MP1840】となっていた。

バックパックで減った分は十二分に取り戻せたな、くくく。

値段ごとのソートの他にカテゴリの欄もあり、タップすると、

【飲食物】【家具】【文房具】などのカテゴリごとに商品が見られるようになっていて、その中に【武器】というものもあった。

武器。

は、もちろんAmaz○nには売ってなかった。

しかしこの通販にはそんなものまで売っている。

ちゃんと世紀末仕様の通販になってるの助かる。

無理に戦うつもりなんてなかったけど、こうなったら武器が必要だ。