軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そして新たなステージへ

会議から一週間後――。

日課の探索をするためにエントランスを出た俺の目には、これまでとは違うカラフルな景色が飛び込んできた。

青い空と緑の芝生の二色だった景色に、今では門までの小道の両脇に色とりどりの花が加わっている。

会議の後、花壇と種と肥料を購入し植えると、さすが魔法の肥料の効果で、あっという間に育ち一週間も経つと花がきれいに咲いている。

パンジー、ニチニチソウ、バーベナ……とか言ってた気がするけど、俺は花に詳しくないので、正直名前を聞いてもよくわからない。せいぜいパンジーくらいだ。

でも、見ればああこの花見たことあるなとわかるし、きれいだってこともわかる。

直接役には立たなくても、文化的な生活を送るにはこういうのも大事だな。

特に荒涼としたマンション外の世界から帰ってきた時に花に出迎えられると、心が豊かになるという言葉の意味がよく理解できる。

「花、いいでしょ? 天音が意見を出したおかげね」

と、花を見ながら待っていると天音がやってきた。

「まあそれは認めよう」

「素直でよろしい。んー、いい香り」

顔を近づけて花の香りを嗅いでいる。

そういえば、すっかり忘れてたけど花って香りもいいものだったな。

こんな世界になってから多くのことを忘れていた気がする。

いや、こうなる前から何年も花の香りなんて嗅いでなかったかもしれない。

「皆さん! おはようございます! いい朝ですねえ!」

浸っている空気を壊して朝からテンション高く現れたのは、日出だった。

「遠くまで行くなんて初めてだから楽しみですよ! 経験者のお二人についていきますね!」

今日の遠征は日出も加わることになっている。

日出も魔法の鞄を買い、俺と天音が遠征していることを知ったら、一緒に行きたいと言った。

「その謙虚な姿勢いいわね、日出くん。先輩に従うように」

「はい、天音さん! 張り切って行きましょう!」

普通ならば、天音との遠征を重ねて遠くにも慣れてきたら、そこからは一人で探索して、報酬を折半するのではなく一人で独占する方がMPが稼げるのだが、今回は少しワケが違う。そのため、人数を減らすのではなく増やすことに異論はなかった。

「ただ東の遠方に行くのは初めてだから、俺たちもそんなに当てにはなりませんよ。何が起きるかわからないし、注意して行きましょう」

今までは西に遠征していたが、今回は東に行ってみることにした。

つまりは未知のエリア、何が起きるかわからないので、一人で行くのは得策ではない。そこで日出も加えた三人で行くことにしたのだった。

「でも東ってドラゴンがいませんでしたっけ? あれはキツくありませんか?」

「北東の駅前だったから、まっすぐ東に行けばドラゴンには会わないはず。ただ東は魔獣多めだから、魔獣への注意はしておいた方がいいですね」

「ええ、ちゃんとこういう時のためにひそかに特訓していましたから! 魔獣が来ても努力しますよ!」

日出がやけに自身ありげだな。

どんな特訓をしてきたのか、見せてもらう時が少し楽しみだ。

「よし、それじゃあ出発しよう」

こうして俺と天音と日出の三人は東へと出発した。

東に行くのは久しぶりだ。

魔獣と戦った橋を渡ろうとすると、また魔獣がいた。

以前倒したけれど、数ヶ月も経てば他の魔獣がまた縄張りにするのは必然か。

巨大ネズミのような魔獣が数匹うろちょろしていたが、あっさりと撃破。

俺たちも以前よりは強くなっている。魔石をたくさん集めたおかげで。

しかしここではまだ日出の特訓の成果は見られなかった、以前と同じように槍を突き出していただけだ。

もっとも日出は「こんな長い槍が、魔法の鞄に入れてれば邪魔にならないなんて驚きですねえ!」とはしゃいでいたが。

橋を渡ってからも東へ東へと進んでいく。

東は魔獣が多いが、簡単に倒せる魔獣としか今のところは出会わず、問題なく進めている。

そして2kmほど進んだろうか、これくらいの距離でも、これまで東に進んだ中では最長記録だと思うが、無事な店舗が見つかった。

最初に気付いたのは天音で。

「見て! コンビニよ!」

そこには□ーソンがかなり無事な姿で残っていた。

窓ガラスもほとんど割れてないし、一部崩落しているということもなく、建物がしっかりとした形で残っている。

「あれだけ状態がいいと、物資も期待できるな。年月はたってるけど、年単位で持つものもコンビニにはたくさんあるし」

「でも少々待ってください! なにやら見たことのない生き物が!」

日出が指さしたところには、…………なんと言ったらいいのか、謎の魔獣がいた。

人間サイズの柱のようなところから、黄緑色の触手が何本も伸びている姿。

超巨大イソギンチャクの触手の数を減らして、長さと太さを増やしたような奇妙な生き物が□ーソンの前で触手をしならせていた。

「これって絶対、近づいたら反応してあの触手で捕食してくるタイプの生き物よね」

「どう見てもそういうタイプだ。近づくのはまずい」

遠距離から退治するしかないな。

そうなると、俺の魔道士の――。

「ふっふっふ」

杖を取り出そうとするより早く、日出が魔法の鞄を開いた。

「ついに来ましたね、私の特訓の成果を見せるときが!」

嬉しそうに言いながら、日出は『ボウガン』を構えた。

「ここしばらく、的を狙う訓練はずっとしていたんですよ! 見ていてください、皆さん!」

「ボウガン? そんなものまで通販にあったの?」

「そうです、私はマホウが戦いに向いていませんので。強そうな武器を通販で探していたら、これにびびっときましたね! さあ、行きましょう!」

ボウガンを構えた日出は照準を微調整しながらあわせていく。

そして引き金を引いた瞬間、イソギン魔獣の表皮のちょうどつなぎ目に矢が刺さった。

「さらにリプレイ」

すかさず天音が矢をリプレイし、さらに傷を深く抉る。

傷口から紫色の血のような液体が流れ出すと同時に、魔獣は暴れ始めた、触手をぶんぶんと振り回した。

だがボウガンの射程距離の方が触手より長いため、無駄なあがき――。

と思いきや、触手で周りの石をつかんで投げてきた。

左右の手に攻撃と防御の杖を持っていたのですぐに盾を作り出してしばらくガードに専念する。

しばらく暴れると落ち着いたので、そこで再び日出が照準をあわせて矢をうつ。

そこに天音のリプレイで傷を深く抉り、反撃は俺が盾でガード。

完璧な三位一体のフォーメーションが決まり、七本目の矢が刺さったところでイソギン魔獣は全身にヒビが入り結晶のように砕け散った。

「ふふっ! なかなかいいコンビネーションじゃない天音達」

「まったくですね! 始めてとは思えない完璧な役割分担でしたよ、これなら魔獣も怖くありません!」

「邪魔者も排除したし、□ーソンに入ろう」

「ええ、楽しみね」

「ええ! 楽しみです!」

俺たちはコンビニに足を踏み入れた。

コンビニの中もきれいで、ほこりっぽくはあるが崩れたりはしていなかった。

ほとんど荒らされも壊されてもいない、これならば、と思ったのだが。

「なんですかこれは、いったいどういうことでしょう!?」

日出が驚きの声をあげたのも無理はない。

きれいに残った店内からは、商品だけがきれいになくなっていたのだから。