軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

これからマンションを焼こうぜ

「マンションを焼く? 何を言ってるの九重さん」

「なるほど、そういうことですか」

「え、アンドラスさんはわかってるの? わかってないの私だけ?」

自分を指さしながら俺の方を向いて説明を求めている目の雪代に、焼いた魔石を放った。

「わぁっ!? あ、もう冷たくなってる」

「見ての通り、魔石は炎で変質しない。ということは、マンションを焼いてもマンションの中の魔石は無事ってことだ」

「うん」

「で、今は魔石とるの苦労してるだろ?」

「うん」

「でもマンションを燃やしつくしたら焼け落ちて崩れるだろ?」

「うん」

「ということは魔石は?」

「一緒に崩れ落ちてくる……はっ! わざわざ私が苦労して一個一個サイコキネシスでとらなくてもいいってことだね!」

そういうことだ。

崩れる過程でもちろん何割かは回収不可なほどにバラバラに損傷してしまうだろうけど、この調子ではその何割かすらいつまでたっても回収できないし、多少のロスは許容してもスピードの方が重要だ。

しかも、今は周囲の建物はもうなくなってるわけだから延焼に気を使う必要もない。

好きなだけ燃やして大丈夫だ。

「ということで、アンドラス、頼む」

「かしこまりました」

アンドラスの手に火の玉が灯り、どんどん大きくなっていく。

「うっわぁ、ここまで熱気が」

顔を手で隠す雪代だが、さらにアンドラスの火の玉は大きくなる。

「燃やすものが大きいですからね、最大火力でやらせていただきます」

そして限界まで大きくなったところで、マンションの一階の窓に向かって火の玉を投げつけた。

炎は窓ガラスを割りながら炸裂し部屋の中にまで飛び散っていき、すぐに部屋の中を燃やし炎が窓から吹き上がった。

「さらに火の回りを早くしましょう」

一つだけでなく、いくつかの部屋に同じように火の玉を投げ入れていく。

すぐに一階全部から炎がごうと燃え上がり始めた。

「すっご。めちゃくちゃ燃えてるんだけど大丈夫?」

「大丈夫だと困る。しっかり燃えてくれないと」

火は上へ上へと伸びていき、上階も次々と焼けていき、ついに最上階も燃え始めた。

パチパチと炎が燃える音に交じって、バキっ、バキッ!と何かが折れるような危険な音が鳴り始めた。

さらに、ドン!バン!と爆発音まで空気を震わせていく。

「離れた方が良さそうだ!」

「りょうかーい」

「もっと遠くだ! 結構高いマンションなんだから!」

100mほど走って後退したところで、一際大きな音が響いた。

それからは一瞬だった。

くしゃっとなったと思ったと同時に、一気にジェンガのように魔石マンションは崩れていった。

風圧はここまでやって来て俺たちをオールバックにし、少し遅れてガレキが飛んできた。

予想はしていたので、杖の盾の裏に二人を入れて身を守り、崩壊の余波から身を守る。

「めちゃくちゃ飛んで来たね。それに凄い音」

「ああ、爆弾でも爆発したのかっていう爆音だったな」

「大きい建物が壊れるところなんて初めてだからびっくりした。あー、あー。なんか自分の声も遠くから聞こえるみたいな感じがするよ」

騒音問題解決のために来て超騒音を聞くとは皮肉な話だ……話か?

ともあれ、耳とそして巻き上がった砂埃が落ち着くまでしばらく俺たちはその場で待った。巨大なものが崩れると巻き上がる砂煙も凄まじい。

5分ほど待って、視界がようやくクリアになった。

そこにあったのは、いや、なかったというべきか。

数十メートルの高さがあったマンションは消え去り、積み上がったガレキの山になっていた。

そして、そのガレキの山には。

「やった、狙い通り魔石がたっぷり!」

鉄筋コンクリートのガレキの中に、青紫のものが水玉模様のように散らばっている。

しかも、ガレキにへばりついているわけでなく、崩れた時の衝撃で離れた破片となっているので回収も容易。

「狙い通りだ。ありがとう、アンドラス。見事な強火」

「力になれて幸いです。それでは……」

「ああ、これなら俺たちも回収作業ができる。始めよう」

俺たちは足元に気をつけながら、ガレキの山から魔石の回収を始めた。

「いやーたくさん集まった。やるね、アンドラスさん」

「お褒めにあずかり光栄です、雪代様」

30分後、俺たちは持ってきたバックパックがいっぱいになるほど魔石を手に入れた。

これだけあればかなりのもんだろう。

しかし、それでもまだマンションの残骸と共に転がっている魔石は数多くある。

「なんかさー、魔石が見えてるのに家に帰るのってアレだな~、なんだっけ、ほら、後味じゃなくて……」

「後ろ髪をひかれる?」

「それ! ひかれるよねー」

バックパックが一杯になったということは、いったんマンションに戻らなければいけないということ。本当はもっと回収したいのは俺も同じだが、持ち運べないからしかたない。

嬉しい悲鳴という言葉の意味がよくわかるな。

魔石で重たいバッグを背負って焼けてない方のマンションまで戻り、また焼けてるマンションへと戻ってくる。

往復したら、またガレキをどかしつつ魔石を拾いバッグに入れていく。

それで鞄がいっぱいになったらまた重いバッグを背負って往復し、また魔石を拾う。

これは足腰が悲鳴を上げるという言葉の意味がわかるな。

「なかなかに……しんどいな」

「よくぞ言ってくれたよ! ほんっと肩が痛い! しかも結構遠いし」

「近くの魔石はそろそろ取り尽くしてきたからな。……これは、魔法のポーチを買うことそろそろ視野に入れるべきか」

「ポーチ……? あー! あったねそんなの!」

マジックポーチ、強い魔法の道具の通販で買える、ポーチサイズだが中には何百リットルも容量があり、さらに中に入れたものの重さもなくなるという代物だ。

あれさえあれば今日の往復も楽々だった。

MPが高くつくから後まわしにしていたけれど、さすがにそろそろ欲しくなってくる。雪代は俺よりもさらに欲しそうな顔をしている。

「うーわ、絶対通販しよう魔法のポーチ。本当もう無理。魔石たくさんあるし、防音室作ってもまだ買えるくらい余ると思うし、決ーめたっ」

「そうと決めたらその分の魔石をもうひと頑張りして回収するか」

俺たちは魔石回収作業を再開する。

そして再びバックパックが一杯になり、戻ろうとした時だった。

「待ってください」

アンドラスが俺たちに目配せした。

「どうかしたの? アンドラスさん」

「あちらを……誰か、います」

アンドラスが目で示した方向には、見たことのない二人組がこちらに近付いている姿が見えた。