軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

201号室

自己紹介も終えると雪代はマンションの周りをぐるっと回って見ていた。俺もそれについていくと、裏でリサイクルボックスの前に来たので魔石を投入しておく。

【MP+520】

雪代を見つけるまでの間に手に入れた魔石だけでも結構稼げた。これがバックパックの効果、一度にたくさん魔石を保持しておけるのは普通に強――。

「きゃぁっ!」

「なんだ?」

突然地響きが始まった。

ガガガガと異音とともに地面が揺れ、マンションも揺れている。

……いや、揺れてるだけじゃない!

マンションが……なんだ? 伸びて……る?

驚くべきことだが、マンションが上に伸びていっていた。

101号室の上に建設のタイムラプスのようにコンクリートが伸びていき、同じ部屋がもう一段積み上がる。そして一階から二階へと上がる階段も同じように伸びていき、完成すると揺れが止まった。

「ま、マンションが大きくなった!? こういうものなの九重さん!」

「いや……俺も初めて見たけど、なんでだろう」

「え。わかんないの? 自分のマンションなのに」

「自分のことを本当にわかってる人間なんていないさ」

「そういう問題かな……」

外から見ると二階建てのマンションになったように見える。

中に入ってみると、階段もちゃんと上れるし、のぼった先には一階と同じように廊下と部屋があり『201』という表示が。

本当に大きくなったよ。ただサイズが大きくなっただけじゃなくて、部屋数がちゃんと増えてる。

そんなことあるのかって感じだけど、まあ増えたならいいか。減ったら嫌だけど増える分には得しかないんだし。得はなんでも受け入れようじゃないか。

しかし理由はなんだ……魔石か。

魔石をリサイクルボックスに投入した直後に、変化が始まったのだからそう推測するのが妥当。

しかし前回投入時は何も起きなかったということを考えると、一定量の魔石をリサイクルボックスにいれてMPをある閾値以上に稼ぐと、その魔力でマンションが成長するってことか。

これは面白い。

通販用だけじゃなくて、このマンションが大きくなるとくれば、魔石集めが2倍やりがいがあるからな。今は小さなマンションだけど、どこまで大きくなるか見てみたいぞ。

「あのー、九重さん。何かわかった?」

「ああ。雪代、俺タワマン目指すよ」

「待って、全然わからない」

頭を抱える雪代をよそに俺はリサイクルボックスを調べる。マンションが大きくなるまでに必要なMPとか魔石の量とかどこかに書かれてないかな。うーん、上も前後も左右も見てもどこにもないな。とにかく入れてみなけりゃわからないってことか。

あ、そうだ。

「雪代、お腹減ってるって言ってなかった?」

「え? あ、うん。とんでもないもの見たせいで忘れてたよ」

「軽くサラダとガッツリ弁当食べるのどっちがいい?」

「うーん。……両方食べたいかも。あ、なにその目は! いいじゃないお腹減ってるんだからさあ!」

俺は101号室にいって日替わり弁当を注文し、宅配ボックスから取り出し、また部屋に戻ってペットボトルの水と一緒に、ずっとついてきていた雪代に渡した。

「もう驚き疲れてきた」

「それは大変だ、たくさん食べて精をつけてくれ。はいサラダ」

元々買ってあったサラダも渡すと、雪代は一心不乱に食べ始めた。

俺も食べるかちょうどお昼だし。

ご飯を食べつつ、雪代にこのマンションについて俺の知っていることを話した。

驚きつつ箸を止めない雪代にひとしきり説明終わる頃、ちょうど食事も終わり。

「ふうー、生き返った。ほんっとうにありがとうございます、九重さまー」

「くるしゅうない。ま、ちょっと魔石採れば済むことだから。そういえばどこか拠点にしてたりする?」

雪代はクビをふるふると横に振った。「私はさまよってただけ」

「じゃあこのマンションに住めば? ちょうど一部屋増えたし」

「いいの!?」

「いいよ。俺使ってるのここだけだから。二階は好きにどうぞ」

「えー、めっちゃ気前いいじゃない」

「そうかな、どうせ使ってないものなんていくら上げても自分が損するわけじゃないし」

「その考え方ができるのはなかなかいないよ、さっすがー。じゃあ、早速行ってみる」

「うん。……あ、俺も行く。部屋の内装がここと同じかどうか見ないと」

「もし違ったら?」

「2階の方がよかったら交換な」

自分が損しないならいくらでもあげるけど、自分が得するなら優先である。当然。

しかし、幸いにも2階の201号室は101号室を完コピしたような部屋だったので部屋争いは起きず、雪代は無事2階に住めることになった。

雪代は201号室の中を見てテンション爆上げだったな。「キレイな部屋ぁ!? フローリングぅ!? しゃ、シャワーまで!? 早速浴びていい!? もう一ヶ月体洗ってないんだよねー」って言って。嬉しそうだったなあ。

……一ヶ月?

「雪代! マジなのか!?」

俺は確かめるために201号室へ駆け上がった。

「えっ!? ちょっと待っ!」

ドアを開け放ちリビングに行くと、下着姿で開け放った窓辺に立って全身に風を浴びてる雪代の姿があった。

状況から分析すると、久しぶりのシャワーを浴びてさっぱりした後、体がほかほかしたので涼んでいるということだろう。

「涼んでるところ邪魔してごめん、ちょっと聞きたいことがあって」

「いやそこ!? ごめんポイント違うでしょ」

「いやなんか、そこに言及して慌てるのも逆に意識してるみたいになっちゃうかなと思って」

「いや意識していいんだよ!? てかしろ!」

あわてて背中を向けてうずくまった雪代が、顔だけこっちに向けて怒鳴っている。

泥まみれで汚れていた肌は今は艶やかで白いがほんのり赤く火照っている、とてもきれいな肌へ生まれ変わっている。

一ヶ月ぶりにシャワーを浴びると脱皮したみたいになるな。

「そうだった、聞きたいことがあったんだよ下着とかそういうことじゃなくて。じゃあ意識して後ろ向くんでちょっと答えて欲しいんだ」

「あ、うん。……なんか私だけ慌ててるの納得いかないなー」

愚痴ってるが一刻も早く知りたいんだ、俺は後を向いて質問をする。

「さっきさ、一ヶ月体洗ってないって言ってたよね」

「うん、そうだけど」

服を着る衣擦れの音と一緒に、雪代の声が聞こえる。

「つまりあの『接触』から一ヶ月経ったってこと?」

「? ちょうど一ヶ月って意味? 正確には28日かな。太陽が何回昇ったかちゃんと数えてたから。まあ一ヶ月でいいでしょ。うん、もういいよこっち向いて」

一ヶ月。

さすがに衝撃的だった。

俺が『接触』の日にマンションの能力を使って、その中で気絶するように眠って、起きてからまだ2日だ。しかし、一ヶ月経っているという。

俺は一ヶ月近くずっとマンションの中で眠っていたのだ。

さすがに驚いたな。まさか気がつかない間にそんな時間が経ってたなんて。

しかし言われてみれば、いくら大異変が起きたからって、一晩でいくらなんでも町中が崩壊しすぎていた。静かになりすぎていた。もうずっと前に滅んだみたいに。

人の姿も周囲に全然なくなってたし、全ての状況が結構な時間が経ったことを示唆していたんだ。

魔力的なパワーの使いすぎで気を失ってた、みたいな感じなのかな。まあこんなマンションを創造するなら力はたくさん使うのが当然か。

いや気を失ってたどころじゃないか、一ヶ月飲まず食わずで生存してたんだし、もはや仮死状態でコールドスリープしてたようなもんだな。

「しかしそう考えると、雪代を見つけたのはファインプレーだったかもしれない。出遅れた一ヶ月分の情報格差を埋められる」

「あれ? え? なにこれ?」

その雪代の困惑した声が聞こえたので振り向くと、モニターをのぞき込んでる? ああ、通販を見て驚いてるのか。たしかにあれは驚く。

「そうそう、このマンションには通――」

「家賃って、なに?」

「販があって……家賃?」

何言うてはりますのんこの娘は。

と思ったけど雪代はふざけてる顔じゃなくちゃんと困惑している。まさか。

「本当に家賃だ」

201号室にも101号室で通販を注文したのと同じモニターがあるが、しかし今はそこに『家賃支払い 1000MP 期日6;23:33:36』と表示してあった。

「ど、どういうことなのこれ?」

「俺にもわからない」

「わからないって、九重さんのマンションでしょ」

「謎が多いんだよねこのマンション。手探りで少しずつ解明してるんだ俺も。でも家賃ってことばの意味ならわかる。住むために払うお金ってことだ」

「いやそれは私にもわかるけど! ……払わなきゃいけないの?」

「多分いけないんじゃないかな。住むなら」

じーっと胡乱な目で俺を見つめる雪代。

「もしやこれが狙い……家賃収入を得るためにシャワーとお弁当で餌付けを」

「言いがかりよしてください。俺も今知ったよこんなシステムがあるなんて。しかし考えてみれば住むためにお金がかかるのは当然だ。そしてこのマンションの通貨は MP(マンションポイント) だ。じゃあそれを支払うのも当然だ」

「うーん。そう言われたらそうだけど。九重さんも払ったの?」

首を横に振ると、雪代が勢いよく身を乗り出してくる。

「ずるい、私だけ払わせるなんて」

「これ俺の能力で出したマンションだし。つまり俺のマンションだし。自分のマンションで家賃払う人はいないし」

「うー、たしかにそれはそう。つまり私は、ここに住みたかったら魔石をとってこい、ってことなのね」

「よろしくお願いしまーす」