軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

MaP

コンコン。

「入るわよー」

蜂駆除の翌日の朝、部屋に天音がやって来た。

「どうしたんだ急に」

「通販端末、あるでしょ?」

「ああ、あるな」

「商品が超たくさんあるでしょ?」

「ああ、超たくさんあるな」

「何買うか迷うでしょ?」

「ああ、迷うな」

「だからマンションの先輩が何を買ったか見て参考にしようと思って」

そういうわけで、天音が俺の部屋を見学していた。

「あー冷蔵庫は欲しいわねー、ぬるい水はもううんざりだし。ちゃぶ台にクッション、うんうん。電子レンジまであるの? 便利すぎ。今の世の中でこんなもの許されないわよ」

独り言を言いながらしばらく見ていた天音は、何を買うのか決まったのか、納得したように頷いた。

「決まった?」

「まずはエアコンね。そして冷蔵庫。この二つから攻める」

「それはいいチョイスだと思う。魔石はある?」

「天音が自然公園で見つけた魔石はあるけど、それでもMPは多分足りないかな。とりあえず水や食料とか生活必需品の分はあったけど、冷蔵庫とか買うならもっと魔石かせがなきゃだめね」

それなら通例通り今日は天音を魔石集めに連れて行くか。

自然公園のことがあるからいらないかもしれないけれど、この辺の地理も教えられることは教えておくほうがいいだろうし。

「……あら? へえ、この辺りの地理?」

ちょうど天音がデスクの上の手書きの地図に目を留めた。

身をかがめてどこに何があるかを上へ下へと見ている。

「ああ、今の世の中じゃどこに何があるかの情報は重要だからな」

「たしかにそうね。あ、まだ自然公園のことは描き込んでないのね」

「まだ場所だけだな」

「じゃあ天音が追加してあげるわ」

と言うやいなや側にあったボールペンでさらさらと自然公園の場所に、俺たちが見つけた星魔石とそれを囲っていた抜け殻の大樹を描いた。さらに砂地獄や魔力の間欠泉もイラストでさっと追加する。

「うまいな、絵」

さっと描き込んだのに俺がこれまでつけたイラストより格段に上手だ。

天音にこんな特技があったとは。

「こんなパパッと描いたのでうまいとか言われると逆に恥ずかしいわね。ちゃんと描けばもっといけるのよ」

俺からしたら十分なんだがな。

「でも地図っていうのはいい考えね。天音ももっておきた……そうだ、これマンションの掲示板に貼って、みんなが書き込みできるようにしておけば、皆が見てきたものが全部集まって詳しいのになるんじゃない?」

「……それ、いいな」

言われてみればもっともだ。

個別に魔石集めに探索出てるのだから、見てるものも違う。

全員が一箇所に知を集約すれば、完成度が高くて役に立つ地図ができる。

危険地帯や魔石が取れなかったけどたくさんある場所や、そういったものを共有できるのも大きい。

地図を描き始めたのは一人とか二人のときだけど、今はもうマンションに十人近くいるんだものな。地図のありようも変えていいはずだ。

「もっと大きい模造紙みたいなのを掲示板に貼っておいて、各々が見たものや備考を描き込むようにしたらいい感じの地図が作れそうだ」

「ふふふ、今日の天音は冴えてるわね。じゃあ九重くんの地図を元にして大枠は天音が描いてあげる、やりましょうこの計画」

早速、通販で大きな紙を注文し……マンション全体のものだけど、紙くらいなら安いから俺のポケットマネー、いやポケットMPでいいだろう。

買った大きな紙に、俺の地図を元に天音が大きな地図を清書していく。

俺が自分用に作ったのより格段に見やすい、謙遜してたけどやっぱりうまいな。しかも書き込みの文字もコンビニのPOPみたいで雰囲気いい。気軽に描き込みやすい空気が出来ている。

しばらく見守っていると、

「できたっ! どうかしら?」

「文句のつけようもない。これはマンションの住民、絶対助かるはず」

「あは、それじゃあ掲示板に持っていきましょう」

でかい紙を二人で持っていき、貼り付ける。

そして自由に描き込んでくれという旨を付記しておく。

「よし。じゃああとは、これに描き足してくれたら計画通りだな。しばらく時間おいてから地図が進化していくのが楽しみだ」

「ええ、そうね。自分で作ったからねー、天音は特に楽しみ」

それから少しの間、俺たちは完成した大きな地図を眺めていた。

「そろそろ行くか。地図に描き込むためにも探索しなきゃいけないからな」

「ええ。じゃ、さっと準備しましょ」

マンションのエントランスにある掲示板、そこにある大きな地図に名残を惜しみつつ、俺と天音は今日の探索へと出発した。

住民が入居した最初は魔石集めのために探索に付き合う。

ということは今もやっていて、それで天音と一緒に今日は探索しているのだが、しかし。

「見っけたわ! ほらここ、ガレキの下に埋まってる、掘り出すわよスコップ寄越してちょうだい」

「はいよ」

「よい……しょっと!」

スコップを斜めに入れて土を少しずつ掻きだしていく天音。

魔石探しは慣れたものという感じだ。

……考えてみればそれもそうだ。

出会った時に言っていた。魔石でマホウが強くなると知っていると。

ということは、一人でサバイバルしていた時にも魔石をある程度探していたはずで、魔石のありそうな場所を見つけられるスキルはあるんだろう。

じゃあ、俺は一緒にレクチャーに来る必要なかったのではという可能性が。

まあ道具は天音まだそろってないから、その点で助けにはなっていると思うことにしようか。

「よし、あと少しで引っこ抜けるわね」

「なに? もう?」

俺が物思いに耽っている間に天音は魔石を地面から引っこ抜ける寸前までスコップで穴を掻きだしていた。

さすがに早すぎる、穴掘るのが得意なのか。

さらに天音は地面を掘っていく。

俺はスコップさばきを目に焼き付けようと注目した。

普通に天音は瓦礫の下の隙間にスコップの柄を突き入れ、奥の方の地面を掘っている。だがその手つきはごく普通で特別早くはない。

そして土を掻き出した――と思った時、ごく普通ではない事象が起きた。

今度は天音はスコップを動かしていないのに、さっき掘っていた場所の地面が抉れたのだ。抉られた土はこちらに引き寄せられるように動いてきて、そして天音がやったのを再演するように、わきに自ら捨てられた。

「そうか! リプレイか!」

「今気付いたの? そうよ、穴掘りをリプレイすれば一回で二倍掘れるでしょう? 早いし楽だし使わない手はないわ」

なるほどな。

穴掘りをリプレイしていたから掘るのが早かったと。

疲れた様子もないのは、実質半分しか掘ってないから。

こんなところでもリプレイは有効活用できるのか。というか、あらゆる作業で同じようにやれるよな、それだけでもめちゃくちゃ便利だ。羨ましいなこの能力。

「よーし、とれたわ、おっきい魔石。これからは自分のマホウのための力にしないで、マンションに持っていけばいいのね」

「ああ、そうすればMPを得て色々買える。もちろん、マホウ強化したければそっちに使ってもいいし、その辺はうまいことバランスとってやってくれれば。しかしこの調子なら、すぐに色々買いそろえられそうだな」

「ええ、すぐ崩壊前みたいな便利な生活を取り戻してみせる。そのためにもどんどん探すわよ、九重くん」

「ああ。俺もこの辺の西の住宅街はあんまり来たことないから、探索で知識を深めたいしな。次々やっていこう」

こうして俺と天音の初探索は順調なスタートを切った。