軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新入居者

「な、な……なぁぁぁぁ…………???」

門をくぐりマンションを目にした日出はなぁなぁbotになっていた。

30秒くらいなぁぁ……と言っていた気がする。とりあえず気が済むまで言わせておこう。

「なななっ!? 誰かいる!?」

今度は別のなが聞こえた。

あ、雪代。

リュックを持ってきた雪代が、日出を見て走って来た姿勢のまま硬直していた。

まあ、とりあえず落ち着くまで待つか。

というわけでしばらく待った後、俺は各々に説明した。

「たしかに普通じゃない力があの日以降身につきはしましたよね。でもマンション……マンションなんてそんなのありえ……ありますもんねえ」

ホワイトとブラウンのマンションの壁を見あげ、日出は赤べこのように何度も頷いている。

「あるんですよ。あるからには利用しようってことで」

「どれだけぶりかわかりません、こんなしっかり建ってる建物見たのは。あ、あの、中を見ても?」

空き部屋の202号室に日出を案内すると、外から見たときよりさらに目を大きくして。

「フフフローリングじゃないですか! ピカピカだあ……それに洗面所!? きれいな水が出る!? シャワー!? トイレ!? な、な……す……すごい……ここだけ世界が滅んでないじゃないですか……!」

言い得て妙だな、ここだけ世界が滅んでないとは。

日出は早歩きで202号室の中を流し、洗面所、リビング、寝室、とぐるぐる回りながら何度も感嘆の声を繰り返していた。

「皆さん、こんな夢のようなところで過ごしているんですか?」

「そうだよ日出さん! すごいでしょここ? 住みたくなっちゃうでしょ?」

得意げに胸を張る雪代。

日出は雪代の言葉を聞いて、背中を丸めて遠慮がちに、

「僕もここに住まわせてもらってよろしいんですか?」

「もちろんだよ、ね、九重さん」

「入居者募集中だから当然。楓も問題ないだろう?」

「はい。日出さん、真面目そうな方ですし」

全会一致だ。

「ということなので、是非このマンションに住んでいったらどうですか? 日出さん」

「もちろん喜んで入居します! 皆さんこれからよろしくお願いします!」

俺たちは拍手で日出を出迎えた。

――計画通り。

ちょうど皆でMPを出し合ってマンションに色々植えようってところだからな。頭数が増えればその分集金額も増えるという道理だ、ククク。

それに。

「じゃあここで一緒にやっていきましょう。あ、でも、日出さん、一ついいですか」

「どうかしました?」

「家賃はきっちりもらいますので、よろしくお願いいます」

日出が202号室に入居し、マンションの住民も4人になった。

入居が決まった後は、通販端末や魔石のリサイクルボックスなどなど普通のマンションにはない特殊機能の説明をして、また植物育て中ということなんかも話した。

そして翌日、早速魔石を集めに行く日出の姿があった。

「おはようございます、九重さん」

「おはようございます、日出さん。昨晩はどうでした?」

「いやはや本当に素晴らしいじゃないですか、床の上、屋根の下で眠るというのは! 文句なしに安心して眠れました、雨風を凌げるなんて感動しましたよ。……あはは、おかしな話ですねそれが昔は当然のことでしたのに」

マンションで眠れたことに興奮しているのか、かなりの早口だ。

大家としても一安心。

「このガレキの上で野ざらしはキツそうですもんね。背中も痛いし汚いし」

「まさしくそうなんですよ。ただ、僕の能力のおかげで汚くても病気にはならないのでそれは助かりましたねえ」

腐った物でも解毒してなんなく食べられるようになるマホウか。

サバイバルする上じゃ便利極まりなかっただろうな。

「マホウが使えるようになったのは不幸中の幸いってとこですね。それじゃ、魔石集めに行きましょうか」

「はい、新参者ですがどうぞよろしくお願いいたします!」

俺は日出と魔石集めに出発した。

日出はそもそも魔石を集めてみようと思ったことがなかったというので、最初は慣れてる俺が取り方のコツを教えて、道具も貸すことにした。

「あの青紫色の結晶がそんなに大事なものだとは驚きですねえ!」

「マンションでは一番大事といっても過言じゃないです、あ、あそこにありますよ」

日出は借りたシャベルで、家の塀から横向きに生えた魔石の結晶を根元からこそぎとった。「こんな感じでよいでしょうか?」と尋ねてきたが、結構キレイにとれてるな。塀のがわに全然魔石が残ってないし、手先、器用だな。

そうやって魔石をとっていき昼時になり、昼休みを取ることにした。

すると……。

「うっ……それは……」

でろでろになったフライドチキンみたいなものが日出が元々身に着けていたボディバッグから出てきた。直接バッグに食べ物入れるのもどうかと思うが、色あいが緑ぽくなっててその意味でも明らかにやばい。

「ああ、ご心配いりません。いつもこういうの食べていましたので。直接入れてるのはあまり行儀がよくないかもしれませんけど、背に腹は代えられませんからね」

「マホウで平気って聞いててもインパクト強いな……。あの、一応日出さんの分のサンドイッチも持ってきたんで、それ食べませんか?」

「よろしいんですか!? でも、腐ってても食べられるなら節約した方がいいかなという気になってしまうんですよね~あはは、すみませんねえ貧乏性で」

サバイバルが長いとそういう思考になるんだな。

でも俺だけサンドイッチ食べるの気まずいが………………いや、待てよ?

「俺も一口、試してみようか」

「え!? 今なんとおっしゃいましたか!?」

「その腐ったチキン、俺も食べてみようかなと」

「ダメダメ、ダメですよ! お腹壊したらどうするんですか!」

「マホウで解毒できるんですよね。だったら」

「理屈ではそうですけど、他人に食べさせたことはないですし。自分はともかく他人が中毒したら僕の責任が……」

「大丈夫、自己責任で食べるから」

食べ物を解毒しているなら、理屈の上では俺だって食べられるはず。

それに、一度は余裕のある状況で試しておかないと、いざというときに想定外が起きたらそれこそ本当に困る。

解毒なんてかなり使える能力だから、早いうちに確認しておきたい。

俺は日出の目を見ながら頷いた。

観念した日出は食べ物に触れて目を閉じ集中する。

そして、どうぞと差し出された、フライドチキンを一口囓った。

うっ……!

この苦味とえぐみは……!

「ぐっ、ぐはっ……! まさか効果がなかっ……!?」

「あ。味は悪いんですよ、どっちにしろ。毒にならないだけで、味は普通に腐ったままなんで、僕の能力」

「……それ先に言えって言っちゃだめですか?」

結論:お腹に異常無し。

解毒したものは他人も理屈通り食べられることが確認できた。

これは単に腐ったものが皆食べられるということ以上に大きい意味がある。

俺以外の住民は魔石を通販でなく自分に使えば能力を強化できる。

解毒能力を強化すれば、腐った食べ物が食べられるところから成長し、食べ物に限らず、体に悪いものを色々と、ゆくゆくはなんでも無効化できるなんてことになるかもしれない。

もしそうなったら間違いなく神能力だからな、日出に魔石を貢いで強化してもらうのはアリな選択だ。

というわけで、しばしの間日出強化週間にし魔石を一緒に集めていった。

もちろん、日出も能力強化だけではなく、生活物資を通販で買うためにも魔石を使い、入居から一週間が経った日には、初の家賃も無事回収することができた。

ちょうどその日のことだった。

昼間はいつものように外に出て、夜帰ってきた俺はマンションの庭を眺めた。

今週の稼ぎでトマトに加えてキュウリとイチゴも植えたけど、美味しく実ってくれたらいいな。

魔石をリサイクルボックスに入れ、宅配ボックスから今日の晩ご飯を回収し、家に帰って一息ついた俺は、今週貯めたMPで何か買おうと通販端末を操作した。

「ん? こんなのあったっけ?」

その画面に、見慣れない項目がさらりと追加されていることに気付いた。

この前、ガチャがしれっと追加されてた時からは、画面をよく見るようにしてたから間違いない、これは昨日まではなかった、間違いなく。

この『強い魔法の品物』は。

─────────────

【強い魔法の品物】《NEW》

◆ マジックポーション(魔法の薬) 500MP

◆ マジックポーチ(魔法の鞄) 5000MP

◆ マジック(魔法) ファーティライザー(の肥料) 1000MP

─────────────