軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マホウについて

「はい、どうぞ」

「おじゃましまーす」

約1時間後(いまだに時計を買っていないので勘だが)、俺は楓の102号室に入った。

ロングヘアの黒髪が濡れている。やはりシャワーを浴びたようだ。ちょうどいいタイミングだな。

今回は雪代に言われたことを思いだしノックをしました。日々学んでるな俺。

「傷があったからさ、これお裾分け」

床に並べたのは、購入したばかりの絆創膏や包帯、消毒薬など。残っているMPと今日稼いだ分で買ったのだ。こういう消耗品はそこまでMP要求高くないのがいいところだ。

魔獣が野生動物と同じように菌とか持ってるのかは謎だけど、念のため消毒しておくにこしたことはないだろう。

「あ、これは……いいんですか? これもMPいるんですよね」

「こんな世界だし助け合った方が生存率は高まる、お互いにね」

「ありがとうございます……」

切り傷は消毒して、捻ったところは湿布や包帯で対処する。

「あの……よかったです、九重さんみたいな方に拾っていただけて。こんな時でも助けてくれる人がいるとは思いませんでした」

「助けるってほどでもない。その方が俺の生存率が高まるからな。戦力も情報も欲しいところだし、逆にこんな世界だからこそだ」

俺が即答すると、楓はゆっくりと頷き、「九重さんの生存率高められるように頑張ります」と言った。

そして背中を向けて、「あの、申し訳ないのですが、腰のところ手が届かないので消毒していただいてもいいですか」と背中を向けて制服の裾をあげた。

たしかに、擦り傷のようなものがある。消毒を塗ると「うんっ……」と染みた声を上げるが我慢あるのみです。

「結構激戦だったんだな」

「強化してない部位は生身ですから。直接攻撃が当たらなくても、避けた時に擦れて切ったりということがあるんですよね。周りがガレキだったり、骨組みが剥き出しの鉄骨があったりするので」

「そうか。今まで無事……傷があるのに無事と言っていいのか微妙だが、大ケガはなくてよかった。よし、これでOK」

「ありがとうございます……」

「楓ちゃーん! 入るよー!」

とその時、雪代が元気よく部屋に入ってきた

「おおっ、九重さんもいる? なるほどお薬!」

「どうしたんだ雪代」

「楓ちゃん、タオル持ってないでしょ。私のかしてあげる!」

「あ……雪代さんまで私のために。ありがとうございます。ここのマンションの人、皆いい人ですね」

「気にしないで、これくらいさ。女の子が同じマンションに来て嬉しいからさー! 仲良くしようね!」

「あ、はい。よろしくお願いします、雪代さん」

「うん、よろしく! 楓ちゃん、ここ本当に快適だからいいよ~」

雪代は楽しげにマンションの新たな住民に話しかけてるな。やっぱり女子が来るとテンション上がるんだろう。

それにしても、二人を見比べると気になることがあるな。

マホウの練度がだいぶ違っていた。

雪代の念動力に比べて、楓の硬質化―― 鉄喰(てっくい) というらしい――は相当強力に見えた。マホウの種類によって大きく差がある可能性もあるけど、だがもう一つの可能性も考えられるな。これは確かめる価値のある情報だ。

「楓、一つ聞きたいんだけどあの鉄で強くなる力って、最初からあんな強かったのか?」

「そんなわけありません。もっと覆える範囲も、固さも弱かったですよ。一ヶ月間で少しずつ強くなったんです」

さらっと楓はそう言った。当たり前のように。

ちらっ、雪代は……あ、めちゃ驚いた顔してる。こいつは間違いなく何も知らなかったな。仲間がいたぞ、くくく。

「マホウって強化できるのか」

「知らなかったんですか? 魔石を取り込めば強化できます。私が気付いたのは、この鉱物や金属を取り込む力で魔石も取り込めるんじゃないかと試した時でした。能力で腕を覆って強くなることはできませんでしたが、能力自体が強化されてることに気付いたんです」

聞けてよかった。

まだこの新たなる世界のルールには知らないことだらけだからな。ルールを知らずにゲームをやっては勝てるわけがない。

「とんでもなく貴重な情報だ。ありがとう楓」

「あ……役に立てたならよかったです……」

はにかんだ薄い笑みを浮かべた楓から、さらに魔石強化の話を聞いた。

最初に気付いたのは鉄喰の能力だったが、その後わかったことによると魔石の持つ力を体内に取り入れるのは能力関係なくできるということだった。

方法はシンプルでずっと体にくっつけていればいいとのこと。そうすると少しずつ力が得られるらしい。

雪代はちなみにまったく知らなかった。魔石を触ったり手に取ってまじまじと見たことはあれど、意識して長時間持っていたことはなかったという。

「ほんのり最初より力強くなったような気はしたけど、ほんのりだから気付かなかったよー」とは雪代の言である。

しかしこのことを知ったからには、試さないわけにはいかないだろう。このサバイバル世界で俺たちが生き残るにはマホウの力は必須だ。それを強化できることは重要になる。

早速俺と雪代は、魔石を探しに行って小さなものだが見つけてきた。足を捻った楓が治るまでの間にやるにはちょうどいいしな。

そしてそれを懐に入れてしばらく過ごす。

一時間ほどしてマンションの外に出て魔石を取り出すと。

「待って! 色が変わってる!」

雪代が取り出した魔石は、紫色が薄まり白っぽくなっていた。いかにも中身が抜けましたって感じだ。

「ってことは、私に魔力がきたってことだよね?」

「試してみよう」

雪代は近くのガレキを持ち上げた。こんな大きいガレキ持ち上げられたっけ? そしてこんなに速く動かせたっけ? こんなに遠くまで飛ばせたっけ?

火を見るより明らかだ。

念動力の力が増している。

「飛んだ飛んだ! めちゃ飛んだよ! 見た!? ねえ見た九重さん!」

「成長しすぎじゃないか? こんなすぐに」

「私って伸びしろなんかなあ……」

「うわでた調子のり。俺の方がもっと伸びしろあるは……あれ?」

俺も試してみようと魔石を懐から出したのだが……。

「そっちの魔石、色変わってなくない?」

雪代が言った通り、俺の魔石はめっちゃ紫のままだ。どういうことだ? 俺は魔石の力を取り込めてないってことか。

「あーあ! 残念だねー! ……って冗談はおいといて、なんで九重さんは違うんだろう」

「……なるほどそういうことか」

推測はたつ。むしろ薄ら予想はしていた。

俺はリサイクルボックスに魔石を投入することで、色々なことができる。そしてたくさん魔石を入れると、マンションが大きくなった。

そう、俺の能力が大きくなったんだ。

魔石を投入し強化される――形は違えど雪代の説明の通り。

マホウが特殊な形態だから、強化の形態も少し特殊なんだ、おそらくは。

だとしたらむしろ運がいいな。わざわざずっと持って無くてもリサイクルボックスに入れるだけならそっちの方がてっとりばやい。

「いや一人で納得してないでね? 九重さんそういうとこだからね」

「大丈夫だ、俺には問題ない」

「私に問題があるんだが!?」

それから二日、楓の足が治るまでの間、雪代は能力強化をしつつ、俺は雪代に説明をしつつ、楓は療養しつつ、時がすぎていった。

そして三日後には、楓は完治し、俺は雪代への説明を終え、雪代は能力をパワーアップさせ、マンションの新体制は整ったのである。

ここから、加速度的に充実させていける。

整えよう、豊かなマンションでの快適な暮らしを。