軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

103

マルクの先導で、入口付近に私は視線を向けた。

――急使。

土埃にまみれた外套。 馬を潰す勢いで駆けてきたのだろう。 息は荒く、整える余裕もない。この場にふさわしくない姿であることなど、気にしていない。 いや――気にしていられないのだ。

広間の空気が、わずかにざわめく。

だが、誰も咎めない。 それだけで、ただ事ではないと知れる。

「……来い」

低く告げる。

騎士は一瞬だけ膝を折り礼を取ると、 迷わず立ち上がりこちらへ進み出た。その動きに、訓練された兵の気配がある。

周囲のざわめきが、自然と落ちていく。やがて、私のすぐ傍で足を止めた。

視線を落とし、声を抑える。

「街道巡回の兵より、緊急報告にございます」

私は、わずかに顎を引いた。続けろ、という合図。騎士は、さらに一歩だけ近づき、私の耳元で声を落とした。

「クロウフォード伯爵領へと続く街道が、何者かにより破壊されました。……それにより、クロウフォード伯爵が負傷されております」

静かに、息を吐く。表情は変えない、しかし思考は一瞬で切り替わっていた。

「……意図的、か」

「は。路盤が掘り崩されております。通行を狙ったものかと」

私は、ゆっくりと顔を上げた。

「諸君。申し訳ないが、この場を中断させていただきます」

声は大きくないが、広間の隅まで通る。

楽の音が止まる。 杯を持つ手が止まり、視線が一斉にこちらへ集まった。

「領内において、看過できぬ事態が発生しました」

短く、しかし曖昧にはしない。

「客人の安全に関わる問題です。対応を最優先とします」

一礼する。

「本日のもてなしは、後日、改めて埋め合わせします。どうかご容赦いただきたい」

沈黙。だが、それは不満ではない。 理解の沈黙だった。

エリシア王女が、静かに口を開く。

「……当然のご判断です」

その声は、場を支えるように落ちる。

「どうか、お気になさらず。こちらのことは問題ありません」

――助かる。私はわずかに頷いた。

「感謝いたします」

それ以上は言わない。 すでに次へ進んでいる。

「マルク」

呼ぶと、即座に背後に現れる。

「騎士団を動かせ。現場を封鎖、街道は全面通行止めだ。出入りした者、全て洗え」

「はっ」

「工兵も出せ。応急でいい、夜のうちに仮復旧に入れ。物流を止めるな」

「承知しました」

「それと、クロウフォード伯爵をこちらへ搬送しろ。医師は最上の者を用意する」

「は」

命令は終わりだ。

私は外套を取り、歩き出す。

……まさか。大国の王族が滞在し、警備が分散したこの瞬間を――狙ったか。

「……いい度胸だ」

怒りではなく、評価に近い、しかし。

「――潰す」

それだけは、揺るがない。

足音が石床に響く。

宴は終わった。

そして――本当の意味での“領主の仕事”が始まる。