作品タイトル不明
第23話 なんでそんなめんどくさいことしてるの?
「拙者、置いていかれてるのでござるが!」
夜霧たちには同行を拒否された。
リックたちにも、突然あらわれた花川を連れていく義理などまるでなかったのだ。
「うぅ……ま、まぁとりあえず命の危険は去ったようなので、どこか落ち着ける場所を探すとするでござるか……」
花川も普通の人間と比較すればたいした能力の持ち主だった。
基本的な能力値は常人を上回るし、どんな傷でも一瞬で治す回復能力も持っている。多くを望まなければ、英雄もどきとしてそれなりに活躍することもできるはずだった。
どこかの寒村で周囲の魔物でも退治していれば、それなりの立ち位置を確保することは可能だろう。なんならハーレムでも作っていちゃいちゃし放題なんてことも夢ではないはずだった。
「そうでござるよ。拙者これでも魔王を倒したパーティの一員だったりするのでござる。ワンランク上を目指してもいいはずでござる! ……そうですな。まずはこの塔の地下でも探索するとしますか。高遠はレアアイテムだとかには興味がなかったようでござるが」
わけのわからないうちにこんなところまで連れてこられた花川だが、夜霧たちの話を聞いているうちにそれとなく事情を察していた。
魔神を封印していた塔なのだ。何かが残されているかもしれない。花川はいくらでも物を収納できるアイテムボックスというスキルを持っている。財宝の持ち運びに不便はないのだった。
さっそく地下へ向かおうとしたところで、花川は何者かの気配を感じて振り向いた。
少年が立っていた。
ずいぶんとくたびれた様子で、精根尽き果てたという雰囲気だが、その目だけは爛々と輝き狂気を 孕(はら) んでいるかのようだった。
「え? あ、その」
花川は即座に土下座を敢行した。何度もこんなことをしているためか、やけにスムーズな動きになってきている。
本能が言っていた。
――これはどう見てもヤバイ奴なので、逆らってはいけないのでござる!
花川は本能の訴えを素直に聞き入れた。
「ねえ? これ、どうなってるわけ?」
少年が一歩を踏み出すと、塔の床が砕けた。八つ当たりだろう。今はその八つ当たりが花川に向かないことを祈るしかなかった。
「あ、あの。そう! 全部高遠夜霧という男が悪いのですよ! ぜんぶ、ぜーんぶ、本当に全部高遠が悪いのでござる! 真実でござる!」
この少年は魔神の眷属なのだろう。眷属は夜霧が全て殺したと花川は思い込んでいたがそうではなかったようだ。夜霧が何を考えていたのかはわからないが、たまたま夜霧に殺意を向けていなかったのかもしれない。
「オルゲインが死んだのも?」
「はい!」
「仲間たちが死んだのも?」
「はい!」
「主様が死んでたのも?」
「はい、はい! そうなんです! 全部あいつのせいなんですよぉ! 拙者まったく関係ないのでござる、たまたまここに連れてこられただけなんですぅ!」
惨めったらしく訴えかける。戦うなどもってのほかで、逃げられる気はまるでしない。ここは泣き落とししかないと花川は考えた。
「信じられないな」
「そうおっしゃられましてもぉ!」
「けど、今の僕には何もわからない。もっと詳しく話を聞かせてもらおうか」
「了解いたしましたでござるぅ!」
花川は床に頭をこすりつけた。
リクトというチートハーレム野郎から逃れてもアオイに連れ回され、ようやく助かったと思えば今度は魔神の眷属とやらが花川を扱き使おうとしている。
だが、二度あることは、三度も四度もあるものだ。
生きていればチャンスはある。花川はとりあえずは服従し、成り行きにまかせることにした。きっと今度もなんとかなる。そう信じることにしたのだった。
*****
賢者シオンの館にある一室。
そこに四人の賢者が集まり、円卓を囲んでいた。
「アオイが消息を絶ちました」
シオンはそう報告した。
前回の会議で、シオンが呼び出した高遠夜霧の存在が問題となっていたのだ。
おそらくはレインの行方不明と、サンタロウの死に関わりがある。
確実ではないものの、たかが賢者候補だ。とりあえずは始末しておけということになった。
一応は賢者に対抗できるだけの戦力があるものと想定し、はぐれ殺しのアオイがその任を負うことになった。
たまたま不相応な力を身に着けただけの半端者ならば、アオイが適任だろう。そういうことになったのだが、ハナブサから峡谷へ向かうとの連絡を最後に、そのアオイが消息を絶ったのだ。
「ってもよぉ。レインにしろアオイにしろ、死ぬとか考えらんねぇだろ。まぁ、サンタロウは死体があるからそうなんだろうがよ」
そう言うのは貧相な体格の男、ヨシフミだった。革のズボンに鋲の付いたジャケットといった格好はチンピラとしか思えないが、彼も賢者の一人だ。
彼はエントと呼ばれる地域を支配する皇帝だった。他の賢者とは違い、自らの領域を直接統治しているのだ。
「峡谷では大規模な破壊が巻き起こった模様ですね。地形が変わってしまっています。この地には剣聖が住んでいるという噂ですが、アオイが敵対するというのも考えづらいですね。そうなると、死にはしなくとも、アオイの身に何かがあったのではと思ってしまうのですが」
「その高遠夜霧ってのもどこにいるかはわかんねーんだろ? だったらとりあえずはほっとくしかねーじゃねーかよ」
「てかさぁ。シオンが呼び出したわけでしょ、その高遠って奴ぅ。人任せにしてる場合なのぉ? ここは責任を持ってあなたが始末しなきゃいけないんじゃないの?」
文句を言うのは黄色のドレスを着た少女、賢者アリスだった。
彼女はプリンセスを自称しているが、ヨシフミとは違って国家に属してはいない。シオンには理解しがたいが、存在自体がプリンセスだと彼女は常から熱弁している。
「そうですね。幸い一緒に呼び出した者たちのことならわかりますし、彼らと接触するかもしれません。わかりました。情報は共有いたしますが、今後は私が中心となって対応することにいたします」
アオイがしくじる、もしくはここまで手間取るとは、シオンも思ってもいなかったのだ。
完全にあてが外れたシオンだったが、こうなると直々に対処するしかなくなっていた。
「ああ、そういや、ずいぶんと減ってるんだっけ?」
思い出したように話に参加してきたのは、金髪碧眼の青年だった。
その容姿からわかるようにシオンたちのように元日本人ではない。彼の名はヴァン。大賢者の実の孫だった。
シオンたちが冠する“大賢者の孫”という肩書はただの称号でしかないが、彼は実際に大賢者の血を受け継ぎ、この世界で生まれ育った者なのだ。
「ええ。立て続けに召喚を行ったのは、減った賢者を穴埋めするためですね。もっとも成果はあまりなかったのですが」
「なんでそんなめんどくさいことしてるの? 増やすぐらい簡単でしょう?」
ヴァンはキョトンとした顔をしていた。本当に簡単なことだと思っているのだろう。
「そう簡単に増えないからいろいろと手を尽くしているんですよ。でしたらヴァンは賢者を増やすことができるというんですか?」
「じゃあやってみるよ。レインとサンタロウの穴埋めでいいのかな?」
「二人と言わず何人でも。ここ最近の 侵略者(アグレッサー) はなかなか手強いようですしね」
「そうだね。じゃあ何人か見繕ってみるよ」
ヴァンはあっさりと答え、シオンは複雑な顔になった。
もしそんなことが簡単にできるのなら、わざわざ異世界から候補者を喚び出している自分はいったい何なのだと言いたくもなるが、そこはお手並み拝見というところだ。
「じゃあそっちはお前らでどうにかしてくれ。つーかよぉ、なんでそんなはりきっちゃってんだ? 侵略者(アグレッサー) なんざ、自分の領域に来るまではほっときゃいいだろうがよ? 俺らに課せられた義務は、領域内の 侵略者(アグレッサー) の撃退のみだ。それ以外は知ったこっちゃねーだろうが?」
ヨシフミが言う。だが、賢者が減り続ければいずれそのしわ寄せはやってくるのだ。早い内に手は打っておかねばならないだろう。
「だからと言って空白地帯に現れた 侵略者(アグレッサー) を放っておいて困るのは、近隣の者なんですけどね」
領域外だったとしても、近隣にあらわれたなら影響はあるだろう。それを無視することもできないはずだ。
「そうそう、その空白地だよ。前回はうやむやになったがよ。今回ははっきりさせてもらうぜ。要はレインの跡地を俺によこせって話だ」
「はいはーい! 私もハナブサ欲しいんだけどー!」
アリスが元気よく手を上げた。
「ざけんな、メスガキ! てめえの領域とは離れすぎてんだろうが!」
「何? ヨシフミのとこなんて、島じゃん! 海を隔てちゃってるじゃん!」
ハナブサはこの世界において、最も現代日本を再現している街だ。大半が元日本人の賢者にとっては、それだけで価値のある場所だろう。
「何なのその三下ファッション! 雑魚じゃん! 出てきて数秒でやられる奴じゃん!」
「これのよさがわかんねーからガキなんだよ! てめぇこそ、そのフリフリは何だおい? そんなプリンセスがどこにいやがるってんだよ!」
「喧嘩売ってんの!? 私の近衛騎士団が黙ってないからね!」
「かかってこいや! 俺の四天王が相手してやるぜ!」
「ぶふっ! 四天王って何? ボスが雑魚っぽけりゃ、部下も雑魚っぽいの! そいつら簡単に死んじゃいそう!」
ヨシフミとアリスの言い争いは収拾がつかなくなっていた。
「わかりました。では主催者権限で勝手に決めさせてもらいます。分割しましょうか。丁度半分にすればいいでしょう。半分がどこなのかは話し合って決めてくださいね」
するとどこを取るかという話でまたもや二人は言い争いを始めた。
「ま、あとはお二人で勝手に決めてくださいな」
これ以上は面倒だと思ったシオンは、二人をこの部屋から強制的に排除した。
ここにいる賢者は、シオンを除いて幻像だったのだ。部屋の主であるシオンには通信を遮断する権限があった。
「じゃあ賢者を増やせたらまた連絡するね」
そう言ってヴァンも消えた。
ヴァンは空白地帯には興味がなかったようだ。何のためにやってきたのかはわからないが、彼にはきまぐれなところがある。ただの暇つぶしだったのかもしれない。
そして、部屋にはシオンだけが残された。
「賢者はどいつもこいつも好き放題やってるってのに、なんでシオンが賢者の数やら、空白地帯の管理やらしなきゃなんねーんだよ」
会議が終わったと見計らったのか、従者のヨウイチが部屋に入ってきた。
「性分というものでしょうか。思うがままを為せ。お爺さまはそうおっしゃいましたが、これが私のしたいことってわけです。どうしても一定の秩序を求めてしまうんですよ」
「で、夜霧って奴はどうするんだ?」
「そうですね。どうもその人が何なのかよくわからないんですよね。即死魔法を使うんじゃないかと、ヨウイチさんは言ってましたけど」
「ハナブサの領主に話を聞いてみたが、何かをしていたようだが、よくわからなかったと、どうでもいいことしか言わなかったな。同じクラスの奴らに聞いてみたらどうだ?」
「ミッション以外のことであまり干渉したくはないのですが……ああ! ではこういうのはどうでしょう? 日本から高遠夜霧を知っている者を召喚するのです!」
シオンは手を叩いた。とてもいい考えだと思えたのだ。
「そんなことができるのか?」
「召喚時のデータが残っていますので、ある程度絞り込むのは可能だと思いますね。さっそくやってみましょうか」
召喚などという大魔術は、普通ならそう簡単には使えないが、シオンにとっては造作もないことだった。
なにせ、魔力は息をしているだけでも増大し続けていて、常に持て余している状態だからだ。
シオンが手を前に伸ばすと、円卓の上に魔法陣が浮かびあがった。その地点と、異世界を結びつけるのだ。
それは世界に落とし穴を作るような行為だった。エネルギー的には最下位に位置するこの世界へとトンネルのようなものを作り上げる。
後は、何者かが仕掛けにかかるのを待つだけだ。
一応は、高遠夜霧の情報を元にして関係者がかかりそうな所に設定はしてみたが、望み通りの者が召喚される確率は低いだろう。
無駄に終わる可能性は高いが、魔力はあり余っている。それは、ただの思いつきによる、暇つぶしに近い行いだった。
「シオン。高遠夜霧そのものを召喚することはできないのか? そうして始末すれば簡単だろう」
「強制召喚は同じ世界同士ですと困難ですね。これはポテンシャルの違う世界を繋ぐからできることなんです。あ、出てきましたよ」
弾けるような音がして、円卓の上に人があらわれる。
それは、白衣の男だった。
「成功か?」
「さあ、それは話を聞いてみないとわかりませんね」
白衣の男は混乱していた。それはそうだろう。男にしてみれば、突然目の前の景色が変わり、得体の知れない場所にやってきたことになるのだ。
「こんにちは。私は賢者シオン。あなたを召喚した者です」
「賢者? 召喚? あなたは何を言ってるんですか?」
話しかけると男は少し落ち着きを取り戻した。
「あなたを喚んだのはですね、高遠夜霧という方についてお聞きしたいからなんです」
その名を聞いた途端に男が狼狽した。それは、あらわれた直後以上の慌てぶりだ。
「召喚? まさか……違う世界? いや、ありえるのか、それは。もともと奴の出自は謎だったんだ。異世界があるというなら、能力の源泉がそこに……エネルギー源については……」
慌てていた男だったが、何かを納得したのか、興奮してぶつぶつと言いながらポケットから携帯端末を取り出す。
「あははははははっ」
そして、携帯端末の画面を見た男は、気が触れたかのように笑いはじめた。
「ここは異世界だというんですか!?」
「その通りですよ」
それはシオンが思っていたのとは違う反応だった。普通ならすぐに信じはしないだろうし、もっと混乱すると思っていたのだ。
「奴が、奴の反応がここにある! そうだよ、奴が死ぬなんてありえないんだ! ここに奴を連れてきたのが、あなたたちだというんですね! ならばあなたたちは救世主だ! 文字通りに世界を救ったんですよ! 僕が世界、いや、人類を代表して、感謝の意を伝えようじゃありませんか!」
「どういうことだ?」
ヨウイチが怪訝な顔になっていた。白衣の男は錯乱しているわけでもなさそうだが、言っていることはまるで意味がわからない。
「もっとも! それはこの世界が危機にさらされるってだけのことですがね! ちくしょう! なんだってんだ! なんだって世界は救われたっていうのに、僕だけがこんな目に遭わなきゃいけないんだ! なんだってあいつは封印を解いちまってるんだよ! お前らにわかるのか? いつもいつも監視ツールを見続けて、あいつが動きださないかとびくびくと怯え続ける気持ちが!」
『Α(アルファ)Ω(オメガ)、第一門の常時解放を確認。レベルCを対象とした自爆シークエンスを発動します。警告。周辺の人物は五メートル以上離れることを推奨いたします。カウントダウン開始。十、九、八……』
その機械的な声は男のどこかから発せられた。
「いやだ、助けてくれ! 死にたくないんだ! 元の世界に帰してくれ!」
シオンたちが呆気に取られて見ているうちに、カウントダウンはあっさりと零に到達する。
そして、男の頭部は爆裂した。
男は、頭骨と脳漿をあたりにぶちまけて円卓の上に倒れる。もちろん即死だった。
「いったい何なんだ、こいつは……」
予想外の顛末にヨウイチが呆然としていた。
「まったくわかりませんが……これ以上喚んでも無駄なんでしょうね」
これまでそれほど夜霧を警戒していなかったシオンだったが、さすがに不気味なものを感じはじめていた。