軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第12話 うわぁ……なんかキッツいの来ちゃったなぁ……

知千佳たちは、カダンの街を出て街道を歩いていた。

ビビアンは追ってこなかった。

夜霧の力を目の当たりにして怯えたというのもあるのだろうが、そもそもが街を出ることを禁止されているからだ。

西エントは、何かの力によって監視されている。

その力をごまかすための結界がカダンの街にはあり、中にいる限りそこに王族がいることは漏洩しないはずだったのだ。

しかし、ビビアンが考えなしに外に出てしまい、ついでとばかりに結界まで破壊してしまった。

今さら外出禁止にさほどの意味はないかもしれないが、彼女らには王家復興のための作戦がある。

神の使徒になったとはいえ、仲間との作戦を放り出してまで夜霧を追うことはできなかったのだろう。

「もこもこさん、ちょっと顔怖いな!」

槐はうっすらと笑みを浮かべていて、その表情が張り付いたようになっていた。

「そう言われてもな。表情まで細やかに操っておる余裕はないからの」

今、霊体のもこもこは上空を浮遊していた。

夜霧を狙って何者かがやってくる可能性が高いため、周辺を警戒しているのだ。

「いきなり俺を殺そうとしてくるならいいんだけど」

殺すつもりで狙われたなら察知できる。

だが、殺意を持たない者が接近してきたとすればそれはわからない。

ビビアンのようなめんどくさい者がいきなり現れるととまどうので、夜霧がもこもこに頼んだのだ。

「こんなことを言うのもなんだけど、私を狙ってきたらどうするわけ?」

自分の命を惜しんでの心配ではない。

知千佳が人質にとられるような事態になれば、夜霧の行動が制限されるのではと思ったからだ。

「前にも言ったかもしれないけど、近くにいれば大丈夫だよ。そばの人への殺意もわかるから」

「今さらだけど、ずるい能力だよね……」

「生まれつきのものだから、文句を言われてもね」

「ま、私じゃどうしようもないことのほうが多いから、近くにいるけどね」

もこもこの協力があれば、近接戦闘ならなんとかなる。

だが、わけのわからない力で遠距離から攻撃されるとなると、知千佳ではどうしようもない。

甘えてばかりではあるが、夜霧に頼らざるを得ないのだ。

「あとどれぐらいなんだろ?」

「地図は……これはよくわかんないな」

夜霧がリュックサックから地図を取り出した。

カダンの街で買い求めた物だ。

知千佳も地図をのぞき込んだ。

「なんの役にも立たないな、これ!」

知千佳たちが今いるのは巨大クレーターの東内側中腹だが、この地図にはクレーターが描かれていなかったのだ。

クレーターはヨシフミに侵略されたときに発生したとのことだった。つまり、この地図は王国時代のもので、現状の地形がまったく反映されていないのだ。

「エルフの森は昔からあるみたいだから、なんとなくの位置がわかるかな?」

「現在地がわかんないとどうしようもないね……」

起伏の激しい場所だった。

岩山がいくつも立ち並び、小規模なクレーターもそこかしこにある。そのためまるで先の見通しがたたなかった。

「なんぞ前方から来るぞ」

もこもこが警告を発した。

岩山の間に人影が見えた。

そのまま歩いていくと、人影の正体がわかった。男だ。武装はしていないが、夜霧たちに注目しているようだった。

「たまたまやってきた人……ってことは?」

「こっち見てるけど」

「そりゃ他に人はいないし、通りすがりだとしても挨拶ぐらいは……あ、立ち止まった」

男は道の真ん中に立っていた。道をゆずる気配はなく、立ち塞がっているつもりらしい。

「こんにちは」

知千佳はとりあえず挨拶してみた。まだ敵と決まったわけでもない。穏便に済むならそれにこしたことはないだろう。

「俺の名はゼロ。アブソリュート・ゼロだ……」

「うわぁ……なんかキッツいの来ちゃったなぁ……」

「それって本名なの?」

夜霧は素直に疑問をぶつけた。

「神の使徒としての名だ。新たな力に目覚めた俺には、新たな名が必要だったということだ」

「使徒になるとこうなるのか、こーゆーのをあえて使徒に選んでるのかどっちなんだろうな?」

「両方な気がするな。元々こーゆー人がさらに調子に乗っちゃうって感じ?」

「で、一応訊いとくけど、何の用?」

「タカトーヨギリ。貴様を殺しにきた。女。お前はターゲットではないから安心するといい」

「はぁ。そうですか」

「わざわざ名乗ったりしてるってことは、話をするつもりはあるのか?」

「冥土の土産というやつか。いいだろう」

「ろくに話が通じてないな……」

「てか、冥土ってこの世界でも言うんだ」

「翻訳の結果そうなるだけであろう」

ビビアンもそうだったが、いきなり攻撃してくるつもりはないようだ。

「俺がどんな力を持っているかは知ってて来てるの?」

「当然だ。なんでも即死させるらしいがその程度は俺にもできる。俺の能力は絶対零度。この力の前にはすべてが凍りつくのだから」

「死ね」

ゼロが倒れた。

「え? 今ので倒しちゃったの?」

「絶対零度? の何かの力を使おうとしたから」

「自分から話ふっといてそれは……いや、使われたらこっちが死んじゃうんだろうけどさ」

「人を殺そうとする奴は、殺されても仕方ないだろ」

けっきょくのところは自業自得だ。知千佳も、夜霧に殺された者を哀れんでいるわけではなかった。

「この人たち、わざわざ出向いてこなくても遠距離から攻撃しようとすればいいんじゃ……」

「そのほうが気は楽だね。顔を見た相手を殺すのは多少は心苦しい」

「これっていつまで続くのかな」

「使徒が全滅するまでかな。これまでに三人と出会ったし、十二使徒だとすると他に九人いるのか」

「十二人なんて保証はまるでないけどね……」

夜霧は倒れたゼロの手を掴み、道の外へと放り出した。

「高遠くん、容赦ないな……」

「道の真ん中に置いとくのも邪魔だろ?」

「見渡す限りは、他にやってくる者はおらんようだ」

「じゃあ行こう」

知千佳たちは、再びエルフの森へと向かいはじめた。

*****

もちろん、神の使徒は夜霧の前に現れる馬鹿ばかりではない。

トレイシーは、ゼロが敗れる様を遠くから観察していた。

トレイシーはずいぶんと前から夜霧の後をつけているのだ。

トレイシーは慎重だった。

夜霧が即死能力を持っていることは神から伝えられていて、軽視はしていない。

なので、いきなり襲おうとは思わなかった。

まずは様子を見ることにしたのだ。

当然、他の者に先を越される可能性はある。

だが、その場合は素直に諦めるしかないだろう。それでもたまたま得た能力がなくなるだけのことであり、それほど惜しむほどのことでもない。その際はいつものように冒険者稼業を続けるだけのことだ。

トレイシーの能力は、誰にも存在を気付かれない能力だ。

その力を得て、一通り試してみた。

盗むのは簡単だった。露店の果物を手に取ってその場で食べようと気付かれない。店主が商品が減ったことに気付くのは、トレイシーが移動して能力の範囲外に出てからのことだった。

金銀財宝を手にするのも思いのままだった。なので、トレイシーはもう一財産を作っておいた。

たとえ、この能力がなくなったとしても、今後一生遊んで暮らせるほどの莫大な財宝を隠してある。

殺すのも簡単だった。

少し前に、トレイシーが受けるつもりだったクエストを横取りしたパーティを襲ってみたのだ。

皆殺しにするのは造作もないことだった。

なにせ相手はトレイシーの存在に気付いていない。正面から深々と心臓を抉られようと喉を斬り裂かれようと、何をされたかもわかっていないのだ。

さすがに仲間がいきなり死ねば何かに攻撃されたのだと気付きはするが、それでもトレイシーの存在に辿りつきはしない。

見えない何かに攻撃されているとわかったところで混乱するばかりだ。けっきょく彼らはトレイシーに対応することはできなかった。

一方的に攻撃が成立するというのはわかった。

だが、中には無差別攻撃を行う者もいるだろう。トレイシーの居場所がわからなくとも、適当に攻撃をばらまけば当たる可能性はある。

しかし、この能力はその程度のことは織り込み済みのようだった。

能力発動中のトレイシーは亜空間のような場所にいて攻撃はすりぬけるのだ。そして、トレイシーが能動的に行った行動は相手に影響を与えることができる。

無敵の能力だった。

この力があれば、夜霧を殺すのも簡単だ。

しばらく観察を続けたトレイシーはそう結論した。

確かに即死能力は恐ろしいが、それは敵と定めた相手に対して発動するものだからだ。

トレイシーは、ゼロを殺して油断している夜霧の背後に近づいていった。

*****

『なんでも凍らせる能力が、タカトーヨギリに敗れました』

『誰にも存在を気付かれない能力が、タカトーヨギリに敗れました』

『光速移動する能力が、タカトーヨギリに敗れました』

『なんでも消す能力が、タカトーヨギリに敗れました』

『大陸破壊能力が、タカトーヨギリに敗れました』

『即死能力無効能力が、タカトーヨギリに敗れました』

*****

「ビビアン。ぼーっとしてないで、荷物をまとめな!」

マーヌに怒鳴られ、ビビアンは我を取り戻した。

ここは、ビビアンの自宅で王家の残党の拠点だった。

「え、その、使徒が次々にやられて……」

「使徒のことはわかったよ。確かに、ビビアンにはなんだかわからない力がある。けど、ここがバレちまった以上、いつまでもここにはいられないんだ」

結界は、王族の気配をごまかすというものだった。

結界を復活させたとしても、この街に王家の残党がいることはばれている。

なのでエルフの森へ行く必要があった。

エルフの森は不可侵の領域だ。

帝国の目もそこには及ばないはずだった。新拠点を作るにしても、東への侵攻経路にするにしても、エルフの森に行くしかないのだ。

「タカトーヨギリ……使徒を立て続けに撃破するなんてやるじゃない……」

だが、感心している場合でもなかった。

神が使徒の勝敗をわざわざ伝えてくるのは、その能力では勝てなかったから対策を考えろということなのだ。

だが、ビビアンの盾の力を得た刀の少年は死んでしまった。

盾の無敵の防御力と蘇生能力は、夜霧の即死能力には通じなかったのだ。

「……いや、正直、私の力で勝てる気がしなくなってきたんだけど!?」

「うるさいよ! さっさとしな!」

「あ、はい」

ビビアンは、また追加で能力をもらえないだろうかと考えた。

*****

「どこがエルフの森やねん!」

森に入ってしばらくして、知千佳がどこへともなくツッコんだ。

「この木の密度は明らかに森だろ?」

「これジャングルじゃん! 熱帯雨林じゃん! やけに暑苦しいじゃん!」

目の前は緑だらけだった。

生い茂る葉が密集していて、木々の間はツルが垂れ下がっている。

植物の匂いが充満し、湿度もやけに高い。

カラフルな鳥がバタバタと飛んでいて、獣の吠え声やうなり声がどこからともなく聞こえていた。

「エルフの森っていったらこーなんとゆーか。神秘的な? 綺麗な湧き水があふれ出てくる泉とかあったりさ! 爽やかな風が吹いてたり、陽光でキラキラしてたり、妖精とかが戯れてそうなイメージでしょ!」

「妖精じゃないけど、虫は飛んでるな」

「なんで手の平ぐらいもある蛾を妖精に置き換えなきゃなんないの!」

「あ、カブトムシだ。でっかい」

全長二十センチほどもあるだろう虫が樹木にへばりついていた。

「童心に返らないでくれるかな!」

「しかし、気候がむちゃくちゃだな。つい先ほどまでは春の陽気に包まれるといった穏やかなものだったが」

「確かにこれは、準備がいるよな」

マーヌたちが準備に時間がかかるようなことを言っていたと夜霧は思い出していた。

「さすがは異世界ということか。ちょっと移動しただけで、ここまで環境が異なってしまうとは」

「気候の変化を精霊のせいにしてたりするらしいしね」

「そもそも、世界が球体ではないからの。地球の常識など当てはめられんだろうな」

「本当にここ進むの? 道ないけど?」

「他に案もないからなぁ。ここから北の山脈ってのもかなり遠いんだろうし」

「道は切り拓くしかないの。文字通り」

もこもこが操る槐の全身から触丸が飛び出し、幾本もの刃になった。

「我が先行して道を作ってやるわ!」

「え? 大丈夫かな? エルフに我らの神聖な森を傷つけるとはよくも! とか怒られない?」

「……壇ノ浦さん。こんなジャングルにいるエルフにまだ幻想を持ってるの?」

「……まだワンチャン、期待してる……」

「そっか……夢を諦めないってすばらしいことだよね……」

もこもこが刃を縦横無尽に振るう。

枝葉はあっさりと切り払われたので、進むのにそれほど支障はないようだった。