軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話 第一回目の裁判を終えて

第一回目の学園裁判を終え、私は講堂の裏からそそくさと退出しようとする。

つつがなく進行できたとは到底言えない学園裁判初回に「やっぱり世の中の判事達はすごいな……」と反省しつつ、逃げるように立ち去ろうとする。

しかしその時、後ろから声がかかった。

「おい!」

振り返ると、予想通りセラード王子とその取り巻きがいて。その奥にいるメアリ・ブランシェット男爵令嬢は彼らから見えないのを良いことに、恐ろしい形相で私を睨み付けていた。

や、やっぱりこうなるよね………!

裁判上仕方ないとは言え、あれだけセラード王子の証拠を反故にしたのだ。

怒るよね。そりゃ怒りたくもなるよね、と思いながら、表面上は極めて冷静を装って返事をする。

「は、はい。何でしょう?」

「先程はよくも恥をかかせてくれたな!お前を判定者から解任する!今すぐ去れ!」

「え、えっと、その………」

セラード王子がつかつかと私の方まで歩み寄り、唾を飛ばしながら叫んでくる。

自分よりも上背のある男に詰め寄られるのは正直怖い。

しかし判定者は一度選ばれるとよっぽどの理由がない限り辞めることができないのだ。

本人の健康上の理由ならば医師証明書が必要であるし、それ以外の理由ならば代理の者を立てなければならない。

基本的に私は交友関係がかなり狭く、また王族と名門オットー侯爵家の学園裁判なんて誰もやりたがらないだろう。

そもそも私だってクローディアの推薦とセラード王子の命令がなければ絶対に断っていた。

あ、そうだ。

「あの、判定者は本人の健康上の理由か、代理の者を用意しなければ辞めることができないんです。私はその、かなり交友関係が狭いので、もし良ければセラード様が代わりの方を推薦してくださると助かるのですが………」

「貴様……!裁判で散々私やメアリの名誉を傷付けておいて、代理の者を私達で見つけろと?ふざけるのも大概にしたらどうだ!!」

わあ、もう何を言っても怒らせる気しかしない!

代わりの者がいないとなると、このまま(嫌でも)私が判定者を継続しなくてはならないし、最終的に裁判の中止だって視野に入れなければならないのだ。

正直裁判の中止が一番良いと思うのだが………。

「メアリよ、可哀想に………!あんな観衆の中、冷徹なこの女によって真実が捻じ曲げられるだなんて」

「そんな!セラード様だって………!私、もう嫌です!ベイルさんは心がないし………こんなに苦しんでいる人がいるのに手も差し伸べない!裁判なんて続けたくないです!」

「だが裁判を中止するということは、私やお前の傷付いた名誉を回復させる場がなくなるということだぞ。それにあの 女狐(クローディア) が悪いのに、何故俺達が譲歩しなければならんのだ」

セラード王子の言葉に眩暈がしそうになる。

メアリはめそめそしながら「ベイルさんは冷酷非道です!」だなんて言うし、それを聞いた王子やその取り巻きの男子達が私を睨み付けてくる。

もうどうしたら良いのよ。

この流れだと私が代理の判定者見つけなくちゃならないの?

こんな面倒ごとに関わりたい人なんていないだろうし、何より見つからず、私がそのまま判定者を続行するとなったらセラード王子に激怒される未来しか見えない。

(いっそのこと大怪我を負うか………?)

痛いのは嫌だけど、判定者を継続できない怪我を負うしか道はないような気がしてきた。

こんなことなら学園裁判でセラード王子の証拠や証言を嘘でも認めた方が良かったのかな。

でも公的ではないとは言え、法廷の場でそんなことは絶対にできない。

私は半ば半泣きになりながら「どうしよう」と困惑する。

するとその時、後ろから声がかかった。

「───お待ちください!」

振り返ればクローディアとリュシアン王子が立っていた。

「いい加減にしてくださいませ!シャーロット・ベイル嬢は正しく裁判を進行し判断してくださったでしょう!それを自分の思い通りにならなかったと言って、寄ってたかって責め立てるとは何事ですか!」

クローディアがきっぱりと物申す。

それに私はほっと安堵した。良かった。優しい。

被告側にまで「あんたの裁判最悪だったよ」だなんて言われたら流石に泣く。

すると今度はリュシアン王子がセラード王子に向かって冷静に言った。

「シャーロット嬢を判定者に据えるのは、兄上もすでに認めていただろう。事前に書面にもサインしたというのにその契約を無効にするつもりか?」

セラード王子の顔色が変わる。

そして顔を赤くしながら声を上げた。

「貴様………!部外者の分際で偉そうに!この者が私の用意した証拠の数々を認めようとしないのが問題だろう!こんな不当な裁判認められるか!」

「兄上が用意した証拠に信頼性がないからこそ、シャーロット嬢はそれを証拠として採用しなかっただけだ。裁判の公正さを保つための判断だと、講堂にいる誰もがそう感じたと思うが」

「その口の利き方は何なんだ!私の スペア(・・・) のくせに生意気だぞ!!」

その言葉に一瞬にして、場の空気が凍り付く。

絶対に言ってはならないセラード王子による侮辱に、私も思わず身体が固まる。

───スペア。

それがもし国王の耳に入れば、もしリュシアン王子の母君である第二王妃が聞いたとなれば、間違いなく後宮は荒れる。

するとしばらくして、クローディアが静かに口を開いた。

「…………ならばどうしろと言うのですか。最終判定者は簡単に替えられない。すでに裁判は始まっている、おまけに裁判も中止したくない。貴方は、自分の思い通りにならない現実を認めたくないだけなんでしょう」

その言葉にセラード王子は怒鳴り返そうとするが、彼の取り巻きの一人が止めに入る。

「これ以上は不利になるぞ、殿下。次の裁判に向けて対策を考えよう」

確か保守派貴族の大臣の息子であったか。

彼がそう言えばセラード王子は最後に舌打ちをし、彼ら一行はその場から立ち去った。

(よ、良かった。何とか乗り切ったぞ)

ほっと胸を撫で下ろし、リュシアン王子とクローディアに一礼して踵を返そうとする。

もう帰りたい。帰って休みたい。

だが、そのタイミングでクローディアが話しかけてきた。

「ベイルさん」

クローディアがじっと私を見つめている。

どこか申し訳なさそうな顔をする彼女に何だろうと首を傾げた。

そしてクローディアは意を決したように口を開く。