軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 学園裁判っていうのはね

「ねえ、セラード様。学園裁判って、何をするんでしょうか?」

学園裁判の『判定者』に選ばれ、これからどうしようかなと呆然としていれば、鈴を転がすような声が耳に入ってきた。

セラード王子の隣に佇むメアリ・ブランシェット男爵令嬢だ。

丸くてぱっちりした青い瞳が不安気に揺れていて「そりゃ学園裁判なんてマイナーな制度、分かんないよね」と内心同意する。

入学初日に簡単な説明があっただけで、実際にそれが発動されたのは今までに数えるほどもないのだ。

だから、当然セラード王子が代表して説明すると思った。

だって彼はこの国の王子だし、あれだけ啖呵を切って裁判をすると言ったのだから、大体の流れくらいは知っているだろうと。

…………しかし。

「………………そうだな。私が答えてやっても良いが、」

セラード王子がちらりと私を見つめる。

それに私はハッとした。

あ、もしかしてこれって私が説明する感じなのかな。

確かに王子自ら細かい制度の説明なんてするもんじゃないし、そういう役目は下々の役目だものねと納得する。

普段学園で王子や上位貴族の人達と積極的に関わることがないため、こういうところが気が回らなくて駄目だなと反省した。

「そ、それでは………差し支えなければ、私からご説明しても?」

「許可しよう」

セラード王子が「うむ」と満足そうに頷く。

良かった。合ってた。

一瞬「もしかしてセラード王子、ろくに学園裁判の制度把握していないのかな……?」とかなり失礼なことを思ったが、そんなはずがないよねと思い直す。

クローディアがそんな王子を冷ややかな眼差しで見つめているのが謎だが、気を取り直して口を開いた。

「では、簡単に説明しますね」

メアリがこくこくと頷く。

セラード王子もどこか安堵したように頬を緩めていた。

「学園裁判というのは、学園内で発生したトラブル………たとえば名誉棄損や暴力行為、イジメなどの案件について公開形式で審理する制度です」

「公開って………みんなの前でやるの?」

「ええ。ある程度の手続きと証拠の提示を経て、全校生徒の前で行われるのが基本です」

メアリの顔が一瞬引き攣る。

よく考えれば彼女はこの一件の『被害者』ということになっているのだから、それだけで気が重いのも当然だろう。

「基本的な構成として、被害を訴える側である原告がいて、今回で言えばセラード王子になります。そして、訴えられた側──つまり被告はクローディア様になりますね。

加えて、第三者として、裁判の進行と判断を行う『判定者』が置かれます。今回、その役割が私です」

「ベイルさんが裁判官みたいな?」

「まあ、似たようなものです。ただ、判定者はあくまで学園内での制度上のもので、正式な法的資格はありません。なので私が判決を下しても法的な拘束力はありませんよ」

法による判決はしないため『判事』とは呼ばない。

だから、ただ判定するだけの役『判定者』なのである。

ここまでは大丈夫かな?

メアリがふむふむと頷く横で、セラード王子は腕を組み、どこか得意げだった。

そんな彼らの様子に安堵し続ける。

「ちなみに被告人であるクローディア様には、自身を弁護する生徒を任意に指名する権利があります。もちろんセラード王子も証拠を提出できますし、証人を呼ぶことも可能です。

つまり、両者ともに、証拠と証言によって自らの主張を支える必要があるということですね」

公的な裁判制度と違って、若干ルールや役職は違っている。

生徒主導で行われる裁判であるため、だいぶ簡略化されており分かりやすいだろう。

「セラード様、私不安だわ。大丈夫かしら」

「メアリ、心配することはないよ。クローディアの悪事なんて証拠はいくらでもあるし、勝利は約束されたようなものさ」

不安そうに目を潤ませるメアリに、セラード王子がそう豪語する。

ところで今回の裁判はどこを争点にするのだろう。

クローディアに婚約破棄を認めさせることだろうか。それともメアリへの嫌がらせを認めさせることか。

「申し訳ありません。確認させていただきたいのですが………今回の裁判の争点はあくまで、クローディア様がメアリさんに対して嫌がらせ行為を行ったか否か。それで合っていますでしょうか?」

「ああ、それで問題ない」

セラード王子があっさりと頷く。

やっぱりそうだよね。そこが起点になるんだもの。

するとその時、それまで静観していた教師の内、男性教師が近寄ってきた。

「話はまとまったようですね。生徒主導で行われますが、学園裁判の管理自体は教職員が執り行います。法廷の提供と日程の調整、また裁判を行うにあたっての契約書の準備などお任せください」

学年主任のリックマン先生だ。

細いフレームの眼鏡をかけた、温和そうなリックマン先生の言葉に慌てて「ありがとうございます」と礼を言う。

学園裁判では書記官や執行官の役目は基本的に学園がやってくれるのだ。生徒達が裁判に集中できるよう諸々の準備をしてもらえるのはありがたい。

セラード王子がそれを他人事のように聞いているが、まず訴状の提出を王子側からしなくてはならないのを理解しているのだろうか………。

「後程詳しい裁判の詳細をまとめて関係者に配布しますね。───では引き続き、パーティーを楽しんでください」

リックマン先生が空気を変えるように、パンッと手を叩く。

すると会場の天井に吊るされていた星のオーナメント達が白く瞬き、生徒達は「わあ」と歓声を上げた。

あの地獄の空気を何とかしてくれたのは有難いが、それでもこれから待ち受ける学園裁判に、私は気が重くて仕方がなかった。