軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0639 深夜会議

その場にいるのは、リュン親王、シオ・フェン公主、リンシュン侍従長、ウェンシュ侍従、ルヤオ隊長、ビジス護衛隊長と侍女ミーファ、そして禁軍統領ティン・メウの八人。

それ以外に部屋の隅に二体のゴーレム……先触れ担当一号君と、友好の証二号君が立っているが。

そんな中、ミーファが全員分のお茶を淹れている。

「殿下、お時間を 割(さ) いていただき感謝いたします」

禁軍統領ティンが頭を下げる。

「いえティン殿、私も何が起きたのか知りたいと思ったからです」

リュン親王が 鷹揚(おうよう) に頷いた。

ことが起きたのは三週間前、皇帝ツーインが帝都近郊のヨースに 臨幸(りんこう) した際であった。

「ヨースは温泉地です。陛下は倒れて以来なかなか体調が全快されず……それで巡察を兼ねて 湯治(とうじ) をすることになったのです」

ティン統領が説明する。

ヨースは、帝都ハンリンからほど近い温泉地であり、湯治場としてもよく知られている。

馬車で半日ほどであり、帝室の別邸もある。

皇帝ツーインも、先の皇太子が亡くなるまではよく利用しており、勝手知ったる場所でもあった。

だが、そこへ向かう途中で問題が起きた。

「 襲撃(しゅうげき) されました」

ティン統領が顔をしかめて言う。

ティン自身が禁軍千人を率いての移動だ。

決して油断していたわけではない。

しかし……。

「襲撃してきた者たちは人ではありませんでした」

「幻人……」

「禁軍は全滅。私も傷つき、燃やされました」

「燃やされた?」

「はい。正確には、部下たちの死体が覆いかぶさり命は残ったのですが……陛下が連れ去られるのを……」

悔しそうに俯くティン統領。

その間、誰も声を出さない。

「生き残った後、なぜ出頭しなかったのですか?」

そう静かに問うたのは、リュン親王であった。

その言葉に、ハッと頭を上げるティン統領。

「私は近くに住む漁師に助けられました。ですが、治癒師もおらず回復に時間がかかりました。漁師が言うには、三日間目が覚めなかったそうです」

「……」

「目が覚め、すぐに帝都に向かいました。しかし途中で知り合いに会い、皇帝陛下が 拉致(らち) されてその犯人が私だと言われていると聞かされ……」

「知り合い? それはどなたですか?」

「 司隷台(しれいだい) のリー・ウー刺史です」

「ふむ」

司隷台は、ダーウェイの地方を監察するのが役目であり、刺史はその監察官という役職である。

「リー・ウー刺史は気骨のある人物であり、信じるに足る人物でもあります」

「ええ、聞いたことがあります。そういえばロンド公が、リー・ウー刺史や御史台のシャウ司空とよく話をするとか」

ティン統領が説明し、リュン親王が記憶をたどってチラリと横を向いた。

視線を向けられたシオ・フェン公主が小さく頷く。

「私は正直、どう行動すればよいか分かりませんでした。ですので、正直に起きたことと思ったことをリー・ウー刺史に打ち明けました。すると、リー・ウー刺史がシャウ司空に相談してくださり、しばらく身をひそめていた方がいいと」

「なるほど」

「それで、シャウ司空が輪舞邸に連れていってくださったのです。そして私をかくまってくれないかとゴーレムたちに話をしてくださって……」

「それで今まで輪舞邸に?」

「はい」

全員の視線が、部屋の隅にたたずむ一号君と二号君に注がれる。

もちろん彼らは何の反応も示さない。

全てを 透徹(とうてつ) した目で八人を見返している……。

「確かに今、帝都で最も安全な場所は輪舞邸でしょうが……。今夜ティン統領が王府にいらしたのは、殿下が戻ってこられたからですか?」

「はい、それもあります」

リンシュン侍従長の問いに、ティン統領が頷く。

「実は、これが本日になって動き出しまして」

ティン統領がそう言って懐から取り出したのは、十センチ四方の薄いカード。

「錬金道具ですね」

ルヤオ隊長が一目で理解し、受け取った。

「かなり古い形式の錬金道具ですが……恐らくは、ビュン・ヤン師の製造でしょう。何かの魔力……そう、個人の追跡を行う道具ですね」

ルヤオ隊長はそこまで言って、何かに気付いたようにハッとした。

「皇帝陛下を追跡する錬金道具?」

「ルヤオ隊長のおっしゃる通りです」

ルヤオの指摘に、頷くティン統領。

「代々の禁軍統領が引き継ぐ錬金道具だそうで……私も動いたのを見たのは三回目です。動き出すのにいくつか条件があるらしいのですが、今回がそれに合致したのでしょう。ですが重要なのはそこではなく……この道具は、皇帝陛下がご存命の場合にのみ稼働するという点です」

「つまり……皇帝陛下は生きておられる?」

「コウリ兄様は陛下が亡くなられたと言っていたがそれは間違い、あるいは嘘」

ティン統領の説明に、ルヤオ隊長が驚き、リュン親王は頷きながら答える。

「すぐに助けにいかないと!」

ウェンシュ侍従が叫ぶ。

だがリュン親王は同調しない。

シオ・フェン公主とリンシュン侍従長も頷かない。

そう、皇宮からは助けが出ないと分かっている。

「恐らく兄上……コウリ殿下は助けるための軍は出さないだろう。救出にも誰も……」

「なぜですか!」

「その方がコウリ殿下にとって都合がいいからだ」

はっきりそう言い切った時のリュン親王には表情はなかった。

あの時、一瞬浮かんだ思考。

全てコウリ親王の計画通りなのではないか?

皇帝位はコウリ親王の手に落ちる。

恐らくそれは間違いない。

そうなった場合……自分を含め、リュン王府に関係する者たちは今まで通りとはいかないであろう。

だが、命を奪われるようなことはあるまい。

すでに 趨勢(すうせい) は決したと思っているはずだからだ。

今さら 有為(ゆうい) な人材を殺すのは、コウリ親王の手法ではない。

むしろ、これまで敵であったものも自分の下で動かす……それこそがコウリ親王の好むところ。

だが、本当にそれでいいのか?

目の前にいるティン統領は、見つかれば処刑されるであろう。

有為な人材であるが、あまりにも皇帝ツーインにその全てを捧げすぎている。

彼が、リュンの帰京を待って王府に現れたのは、今回の襲撃の裏にコウリ親王がいると考えているからであろう。

あるいはシャウ司空辺りもそう考えているかもしれない。

危険を冒してでも皇帝を助けにいくべきか?

理性ではそれが難しいと理解している。

リスクを負ってまでやるべきではないかもしれないと理解している。

だが感情は助けるべきだと……叫んでいる。

「リュン様、お父上の身柄、いかがなさいますか?」

シオ・フェン公主が放ったその一言が、リュンの心を打った。

そう、捕らわれた皇帝は父だ。

見捨てる?

あり得ない!

「助け出す」

まずそれが結論。

だが問題は方法だ。

助け出すという結論に、その場にいる者たちは頷いた。

しかし具体的な方法となると……。

相手は幻人だ。

皇宮に単騎で襲撃をかけるほど強い。

聞くところによれば、そんな者たちが十万人もいるという。

「十万……」

「大軍ですね」

リュン親王の 呟(つぶや) きに、シオ・フェン公主が重ねる。

同時に、二人の頭の中に一つの歌が 蘇(よみがえ) る。

『アベル王に、付き従う一人の魔法使いあり。その魔法は、天を消し、大地を砕き、世界を凍てつかす、大いなる水の魔法。ただ一撃にて、十万の大軍を打ち破りしは、夢幻にあらず。人は讃えて氷瀑、あるいは白銀公爵と謳うなり』

「本当に……いつも頼ってしまうな」

「申し訳ないとは思いますが……」

リュン親王が小さく首を振り、シオ・フェン公主が少しだけ顔をしかめる。

だが、現実的に他の方法が思いつかない。

リュン王府の力は、全て封じられているも同然。

皇宮の力は、明確にコウリ親王の下。

一つ一つ考えていくと、驚くほど使えるものがないのだ。

当然だろう。

仕組んだのは第二皇子コウリ親王の可能性が高いのだ。

その計算能力の高さは他の 追随(ついずい) を許さない。

「ロンド公爵にお願いする」

リュン親王ははっきりと言い切った。

迷いはある。

申し訳なさもある。

だが、それは全て表には出さない。

「リンシュン、私が打てる手が何かあるか?」

「殿下、親王は皇帝陛下同様に、公船に対する正式な命令権を持っております」

リュン親王の問いに、リンシュン侍従長が答えた。

誰に頼ることになるのかも、そしてこの問いも、全て予測していたかのようによどみなく。

「なるほど。アティンジョ大公国の港町ホイアンに回航した第十船への命令権だな」

「はい」

「ロンド公に第十船を使ってもらって海路を北上すれば、多少は楽になるか」

「少なくともダーウェイとペイユ国を抜けての陸路に比べれば……」

「分かった、命令書を書こう」

リュン親王は頷いた。

だが、小さくため息をつく。

最大の問題があるからだ。

「問題は、どうやってロンド公に伝えるか。そして命令書などを渡すかだな」

リュン親王が言うと、多くが頷いた。

そう、王府を抜け出し、帝都を抜け出し、戻ってこようとしているはずのロンド公爵に、どうやって接触するか。

しかもコウリ親王陣営に知られないように。

「殿下、考えがあります」

そう言ったルヤオ隊長の表情は、決意に満ちていた。

「ルヤオ? 何か策があるのか?」

「はい」

リュン親王の問いに、ルヤオ隊長は頷く。

そして立ち上がると、部屋の隅に立っている一体のゴーレムの元に行った。

「二号君、頼みがある。ロンド公爵を探して、殿下の手紙を届けて欲しい。できるか?」

ルヤオ隊長が優しい、いや寂しいと言ってもいいだろう口調で問う。

場合によっては、 今生(こんじょう) の別れとなる可能性もあるのだ。

寂しい気持ちも仕方あるまい。

だが、友好の証二号君は何も言わない。

頷きもしない。

ただ一つ。

右手を拳にして前に突き出す。

その拳に、ルヤオ隊長も右拳を触れさせる。

行われたのはそれだけだ。

だがそれで十分。

「殿下、友好の証二号君に届けてもらいましょう」

「分かった」