軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0574 戦場の罠

「斉射三連、撃て!」

魔法砲撃隊ルヤオ隊長の声が響く。

その瞬間、百人の魔法砲撃隊から、百本の炎の道が 奔(はし) った。

続けて斉射。

さらに斉射。

合計三回。

三百本の火属性攻撃魔法が放たれる。

「凄い!」

「確かにな!」

思わず涼もアベルも感嘆の声をあげた。

だが……。

一直線に飛んだ火属性魔法は、魔物たちに着弾する前に、見えない壁に弾かれたかのように急に軌道が変わって、斜め後方に飛んでいった。

三百本全て。

「マジか……」

「対消滅じゃない……弾かれた」

アベルが驚き、涼が分析する。

「あの弾き方は見覚えがあります」

涼の記憶が呼び覚まされる。

すぐに遠眼鏡で見る。

あの時は、涼の<アイシクルランス>が弾かれた。

空中に……。

「やっぱり! 呪符!」

魔物たちの前、空中に並んだ呪符。

「なるほどな。呪符で魔法を弾いたのか。ということは、魔物だけじゃなくて呪法使いの幻人もいるということだな」

「この前、皇宮を襲撃した幻人……マリエさんでしたっけ。彼女は呪法使いというより魔法使いでしたけど……いろいろいるんですかね」

「あのマリエ以外に知っている幻人は、ヘルブ公と、虎山のガリベチだけだろう? 確かに二人とも呪法使いだったが、それだけの情報では何とも言えんな」

アベルが正論を述べる。

二人がそんな会話を交わしている間に、再び魔法砲撃隊による斉射が行われた。

だが、前回同様弾かれる。

ルヤオ隊長が、リュン皇子の方を見て首を振る。

魔法砲撃は通じないということらしい。

リュン皇子はそれを受けて、傍らのリンシュン侍従長を見る。

リンシュン侍従長は、一本だけ指を立てた。

それを見て、頷いたリュン皇子は命令を下す。

「黒旗軍、千騎で突撃」

「承知!」

リュン皇子の命令を受け、鋭く答える黒旗軍のビジャン・ルウ将軍。

傍(かたわ) らで、満足そうな表情のウェンシュ侍従。

ようやく、自分が希望していた騎馬突撃が行われるからだ。

「アベル、僕は不安です」

「正直だな。だが、俺も同感だ」

涼の、さすがにひそめた声に、アベルも小さな声で答える。

「皇帝陛下に、指揮はリュン皇子に執らせると明言されていなければ、僕が介入したいです。そうすれば犠牲が減ります」

「言いたいことは分かる。だが、その犠牲も含めてのリュン皇子の指揮だ。残酷な言い方をすれば、自分の命令で部下の犠牲を経験させるためのな」

「凄く嫌です」

涼は顔をしかめている。

だが、アベルを非難したりはしない。

アベルがゴールド・ヒル会戦などで、それら全てを理解しながら戦闘指揮を行っていたことを知っているからだ。

犠牲が出る。

死ぬかもしれない。

それを理解しながら、目の前の人間に「出撃しろ」と命令する。

普通の人の心では耐えられないかもしれない。

だが、 為政者(いせいしゃ) ならば、為政者の候補であるのならば、耐えられなければならない。

しかもダーウェイにおいては、皇帝は為政者であると同時に、最高司令官でもあるのだ。

政治のトップであり、なおかつ軍事のトップでもある。

耐えられそうにないのなら、すぐに地位を投げ捨てて 隠遁(いんとん) するべきなのだろう。

涼は、アベルがそんな試練にさらされてきたことを知っている。

だから、非難はしない。

「実は、<アイスアーマー>とかを、全員に着てもらおうかとかも考えたのです」

「氷の鎧か」

「あれがあれば、最低限、死にはしないだろうと」

「だが、それは皇帝の要望とは違うのだろう」

「ええ、そう思ったので提案しなかったです。皇帝が経験させたい事って……残酷です」

「そうだな。私のために死んでくれとか、国のために死んでくれと言うのは残酷なことだ。だからこそ、できるだけ戦争など起きない国家運営が必要になる」

涼が言うのは、一般人の感情だ。

アベルが言うのは、国家運営の本質だ。

もちろん、どちらが上、下、どちらが大切というものではない。

上下の区別なく、人としてどちらも大切なものだから。

「恐らく皇帝は、今回の数百、あるいは数千の犠牲を経験することによって、将来のリュン皇子が数万の犠牲を経験しないようになる……そう考えているんだろう」

「でも、それは保証されないものです」

「もちろんそうだ。将来の事など、何も保証されない」

涼の非難がましい言葉に、むしろアベルは優しく答える。

「だから可能性の問題だ。小さい数字のうちに経験させておく……人道的には称賛されないだろうがな」

「 世知(せち) 辛(がら) い世の中です」

「そうだな。まったくその通りだ」

「黒旗軍、突撃!」

一千騎の突撃は、大地を揺るがす。

それは、直前まで沈んだ表情になっていた涼の気持ちすら奮い立たせた。

「凄い! これは魔物なんていちころですよ!」

「届けばな」

「アベルは悲観主義すぎます」

アベルの無慈悲な言葉は、認めたくない予測だが十分あり得ることを涼も分かっている。

だから遠眼鏡を離さない。

黒旗軍一千騎が、鎮圧軍と魔物とのちょうど中間に差し掛かった時。

全軍が消えた。

「え?」

何が起きたか理解できない涼。

「落とし穴に落ちた」

理解し簡潔に説明するアベル。

だが、簡潔すぎて涼には理解できない。

「落とし穴って……森の中とかなら分かりますけど、こんなまっ平らで、地面すら見えているところに落とし穴なんて無理です。あったら気づくでしょう?」

「そう言われてもな。落ちたのは事実だ」

アベルにそう言われて、黒旗軍が消えた辺りの地面をよく見る涼。

「確かに、地面に……ここから見ると横に亀裂のようなものが入っていますね。でも、緑荘平野はまっ平らって言ってましたよ? あんなものがあったら地元の人も知っているでしょう。魔法で造ったのだとしても……さっきまでありませんでしたから、瞬間的に造った?」

「瞬間的には難しいだろう。土属性魔法で、あれほどの規模の穴を掘るとしたら、魔法使い三十人、三時間、さらに魔法陣を使っての大魔法というやつになる。いや、それでもあんな事ができるか分からんが。それより現実的なのは錬金術だ」

「錬金術?」

アベルの言葉に驚く涼。

「さっき落ちる直前に、地面が四カ所、淡く光ったように見えた。その光った箇所はあの穴の頂点だ」

「角っこ? なんか……杭みたいなのが刺さってます。地面からちょっとしか出てないから、言われないと気付かないですが」

「あれが錬金道具なんじゃないか? 錬金術が発動する時に、淡く光るだろう。その光だった気がした」

「確かに錬金術はそうですね。でもアベル、よく知っていましたね」

「俺も、国王になってから三年、いろいろ経験したんだよ」

正直、国王になる前のアベルは、それほど錬金術に詳しかった印象はない。

だが、国王になってから、いろいろ学んだのだろう。

「ケネスに教えてもらったんですね」

「ああ、時間を割いていろいろ教えてもらった」

ケネス・ヘイワード子爵は、王立錬金工房のトップだ。

同時にアベルとは、飲み会組織『次男坊連合』のメンバーでもある。

もっとも、国王になってからは忙しすぎて、一度も飲み会には出れていないアベルだが。

「アベル……ケネスは忙しいのですから、くだらないことに引っ張り出さないでください」

「くだらない事って……。一番の専門家に教えてもらうのが最良だろう?」

「それはそうですが、ケネスはアベルにはもったいないです」

「もったいない……」

「アベルが教えてもらうなら、そうですね……もっと低い人で大丈夫です」

「低い人か。例えばリョウだな」

「う……僕は確かにケネスよりは低いですが……」

二人が話している間に、動きがあった。

「浮いている呪符が動いた?」

「落とし穴の方に向かっているな」

「まさか……」

「呪符による魔法攻撃だろう」

二人とも、イリアジャ女王の即位式で見た覚えがある。

逃げ場がなく、よけようもない落とし穴の中への攻撃。

見ているしかない二人。

リュン皇子を含め、本陣の人間は恐らく何が起きるか理解してない。

しかし、リュン皇子の表情には、 苦渋(くじゅう) と諦めがあるのが涼にも読み取れた。

突撃命令を出した時、何らかの罠があることは分かっていた。

分かった上で、命令を下した。

死ぬかもしれないと理解しながら。

もしかしたら生き残るかもしれないと祈りながら。

だが……落とし穴に落ちた瞬間、黒旗軍一千騎の命を諦めた。

それでも目は逸らさない。

自分が下した命令に、責任を持つために。

この後、何が起ころうと、責任を持つために。

(<アイスウォール>)

ガキンッガキンッ……。

硬質な何かどうしが当たった音が、かすかに本陣まで聞こえる。

落とし穴の中で何が起きているのか、本陣にいる人間には理解できていない。

だが、アベルは例外だ。

「リョウ……」

非難の口調ではない。

褒めた口調でもない。

ため息に近い口調……。

アベルは、正確に、涼が氷の壁を張って呪符からの攻撃を防いだ音であることを理解したのだ。

介入しないことを確認したばかりなのに。

「僕には無理でした」

涼が顔をしかめて答える。

もしかしたら、涼の介入は、リュン皇子の成長を 妨(さまた) げてしまったかもしれない。

それは理解している。

でも、千人もの人が、目の前で命を絶たれるのは耐えられない。

涼は為政者ではないのだ。

普通の、善良な一般市民……の感覚を持った公爵なのだ。

リュン皇子の成長を妨げてでも、救える命は救いたい……。

そして、行動に移した。

「アベルや皇帝陛下、リュン皇子のようには、僕の心は強くないです」

涼が首を振りながら言う。

もう少し何とかならなかったかとは思うが、介入した事を後悔はしていない。

どうしても、涼の中では、人の命は大切なものだから。

「リョウは、それでいいと思うぞ」

「え?」

「俺だって心が強いんじゃない。切り離しているだけだ……決断する時に、自分の心ではないと、切り離して」

「……」

「まあ、介入する方が、確かにリョウらしい」

アベルはそう言って、笑った。

涼の心は、最終的に、その笑顔に救われたのかもしれない。

涼は、顔をあげた。

決然たる顔となって、リュン皇子の方に歩いていく。

「殿下、 意見具申(いけんぐしん) があります」

「え? ロンド公?」

涼が介入してくるのは想定外だったのだろう。

あえて、涼の屋敷でも確認したからだ。

指揮権はリュン皇子が持っていると。

「指揮権はリュン皇子がお持ちです。そこは揺るぎません」

まず明確にしておく。

部下である供回りの者たちや、皇帝から付けられた黒旗軍ビジャン・ルウ将軍もいる前で、顔を潰してはいけない。

そんな事をすれば、通る意見も通らなくなる。

「その上で、少しお話ししたいことがあります」

顔を潰さない最も良い方法は、二人だけで話すこと。

伝えたいことは、相手に伝わりさえすればいい。

わざわざその過程を、他の人に見せる必要はない。

「皆、外に出ていろ」

「しかし殿下!」

「ウェンシュ。出ていろ」

厳然たる態度で退出させるリュン皇子。

アベルも、涼をチラリと見る。

涼は小さく頷いた。

アベルやウェンシュ侍従を含め、リュン皇子と涼以外の全員が本陣の外に出た。

「殿下、申し訳ありません」

涼がいきなり頭を下げて謝罪する。

「ロンド公?」

「私は約束を破って、先ほど戦場に介入してしまいました」

「先ほど本陣にまで聞こえてきた音は……」

「敵の、呪符からの攻撃を氷の壁で防いだ音です」

実は、今もまだ断続的に聞こえてくる。

「そうでしたか」

リュン皇子は小さく頷いた。

そして、はっきりと頭を下げた。

「部下を救っていただき感謝いたします」

その時、涼は、リュン皇子の 器(うつわ) の大きさを見た。

突然、自分の指揮に介入されれば、誰だって気分を害する。

しかもそれが、数日前、指揮はお任せしますと言い切った者であればなおさらだろう。

だが、リュン皇子は、そんな人物に感謝した。

なかなかできることではない。

十九歳の若さで!

リュン皇子の側から見れば、実はまた少し事情が変わる。

突然、指揮に介入したと言われたのは驚いた。

それは確かにそうなのだが、それ以上に、諦めていた命が助かったのだ。

それも、精鋭として皇帝より預かった千人の命が。

感謝こそすれ、怒ったりはしない。

しかも目の前で、吟遊詩人にも歌われた半伝説的な人物が、その突然の介入を申し訳ないと言えば…… 憤慨(ふんがい) する気持ちが僅かにあったとしても、そんなものは消し飛ぶ。

ルヤオ隊長が、人が関わってはいけないとまで言う者たちと、どうも深く関係しているらしいロンド公。

そんな人物に頭を下げられれば、恐ろしさすら感じてしまう……。

「それでロンド公、意見具申とさっきおっしゃいましたが」

「はい、殿下。敵は、呪符での攻撃が通じないと分かれば次の手に出てきます。いくつか考えられますが、わざわざ並べて前面に置いた魔物たちを、このまま置物としておくとは思えません」

「つまり、あの魔物……オークたちを推し進めてくるということですね」

お互いの謝罪、感謝の、『謝』の時間は終わり、すぐに実務へ。

そう、ここは戦場だから。

当然、鎮圧軍にはプランB、すなわち次の策が準備されている。

今回のように、黒旗軍の突撃がうまくいかなかった場合の策が。

それを聞いて、涼は提案した。

「それを速やかに実行するのに……水属性魔法に、ちょうどいい魔法があります」

外に出ていた全員が本陣に戻された。

そして、リュン皇子が彼らに宣言する。

「ロンド公に協力していただく」

言うのはそれだけ。

内容は説明しない。

その必要はないのだ。

なぜなら、皇子が最高司令官だから。

全ての決定を下す者だから。

全ての責任を負う者だから。

ウェンシュ侍従は少し顔をしかめている。

不満というより、理解できないという表情だ。

しかし、それ以上に詳しい説明はされなかった。

そして、本陣が再び動き始める。

そこには、元気を取り戻した水属性の魔法使いが一人。

「全ての問題はクリアされました。Problem solvedです!」

「ぷろ……そる……何?」

「気にしないでください。慣用句みたいなものですから」

アベルの疑問を、軽く受け流す涼。

その右手には、白扇がある。

今回のために買ってきて、鞄に入れていたのを取り出したらしい。

「ここからは、誰一人として死なせませんよ」

「落とし穴に落ちた連中も、氷の壁で守ってるんだろう?」

「そうですけど、落ちた時に打ち所が悪かった人もいるかもしれません。その辺は何とも……」

「なるほど」

戦場である以上、いろんなことが起こる。

「敵の魔物が走った……」

「進軍を開始したようです」

遠眼鏡で状況を見ていた、ウェンシュ侍従と黒旗軍のビジャン・ルウ将軍が報告する。

その言葉を聞いて、リュン皇子が涼を見て頷いた。

涼も頷き返す。

最高司令官の許可は下りた。

「やり返してやります」

涼はそう言うと、右手に持った白扇を、一度大きく振った。

そして、唱える。

「<パディー>」

だが、何も起こらない。

遠眼鏡で見ていたウェンシュ侍従とビジャン・ルウ将軍も、一度、遠眼鏡を離して涼の方を見て、再び遠眼鏡で戦場を見るが……何も変わっていない。

だが、アベルとリュン皇子だけは、ずっと遠眼鏡で戦場を見続けている。

涼が魔法を行使したのだ。

必ず何かが起きる。

一斉に走り始めた魔物。

数は半分、一千体ほどだろうか。

そんな魔物たちの身長が、突然、半分になった。

ずっと遠眼鏡で見続けていたアベルですら、何が起きたか理解するのに数秒を要した。

「 泥地(でいち) ?」

思ったことを呟く。

「泥沼の恐ろしさを知るがいいです」

涼がそう言ったことで、アベルは自分の理解が正解だと分かった。

だが、なぜ突然泥地が?

「水田を造ったのですよ」

「水田? ああ、ライスの畑か」

涼が言い、アベルが自己流に解釈しなおす。

ナイトレイ王国には『水田』という単語がないらしく、アベルはいつも『ライスの畑』と言い換える。

王国南部では、稲作があり、水田で稲が育てられているのだが……。

それが『ライスの畑』らしい。

「まさか、あの畑を一瞬で造ったのか?」

「僕も進歩したのです」

アベルの驚きに、得意げに答える涼。

ロンドの森では、何度も水田を造っている。

それこそ最初は、数十分間も<アイシクルランス>を撃ちこみ、<ウォータージェット>で土を細かく砕いて作り上げていた。

傍目には、驚くほど派手な光景がそこにはあった。

だが、今ではその必要はない。

地面の中の水を増やし、極小で極短な<ウォータージェット>で、これも地面の中で土を砕き……。

しかもそれを数の暴力で、一瞬で数万の<ウォータージェット>でもって、水田を形成させる。

地面が剥き出しになった場所なら、大軍の足止めにこれほど最適な方法はない。

まさに、水属性魔法使いの 面目躍如(めんもくやくじょ) !

「殿下、足止め成功です」

「よくやったロンド公」

きちんと、報告と称賛を他の者たちに見せておく。

それによって、リュン皇子が最高司令官であり、涼もそれを尊重しているのだということを示せる。

これは、簡単だが大切な手続き。

「ビジャン・ルウ将軍、黒旗軍歩兵二千ずつ、両翼から前進」

「承知!」

その命令によって、黒旗軍の歩兵が、落とし穴と『水田』の外側を通って、二千ずつ両翼から敵陣に迫る。

落とし穴に落ちた味方も、水田にはまった敵魔物も素通りして。

歩兵には斥候部隊も同伴し、騎馬一千騎を落とした落とし穴の錬金道具が地面に埋まっていないかを確認しながら進軍している。

合計四千の歩兵の進軍も堂々たるもので、その圧力は騎馬一千騎の突撃並みにある。

だが、相手には呪法使いがいる。

彼らは呪符を飛ばして、そこから攻撃魔法を放つことができる。

歩兵たちは、油断なく盾を構えながら進んでいた。

そこに、飛んできた呪符から火属性魔法が放たれる。

盾が攻撃魔法を弾いた。

「あの盾……今のはリョウの水属性魔法じゃないよな?」

「ええ、違います。黒旗軍の盾には魔石が埋め込まれていて、表面に無属性魔法の<障壁>とかいうのが張られるみたいですよ」

「ああ、ウォーレンの盾と同じ原理か」

涼の説明に、アベルが納得して頷く。

だが、逆に涼が驚いた。

「え! ウォーレンの盾って、魔石が埋め込まれているんですか?」

ウォーレンとは、アベルがリーダーをしていた『赤き剣』の盾使いだ。

不倒の二つ名を持ち、現在は王都の北にある北部第二の都市カーライルの街に本拠地を置き、カーライル伯爵として治めている。

そんなウォーレンの盾に、そんな機構があったなんて、涼は初めて聞いたのだ。

「なんだ、知らなかったのか? そうじゃなきゃ、あらゆる魔法を弾いたりできないだろう? ウォーレンほどの、超一流の盾使いになると、攻撃が当たる瞬間だけ生成とかしていたんじゃなかったか。おかげで、戦闘中の魔石の魔力切れとか経験したことないぞ」

「知らなかったです」

考えてみれば涼は、ウォーレンが盾で魔法を防いでいるのを見たことがない……多分。

知らないのは当然かもしれない。

「だが、魔石を準備するのも簡単じゃないから……軍全部の盾にそれをやるとか、凄いな」

「ええ。超大国なればこそでしょうか」

ちなみに、ナイトレイ王国で、そんなことをしている軍はない。

呪符による攻撃をものともせずに進み続ける歩兵。

徴兵された農民などではなく、戦うことを仕事にしている職業軍人だからであろうか。

一糸(いっし) 乱れぬ行軍だ。

それに、ついにしびれを切らしたのだろう。

残った一千体のオークが、進み始め……歩兵と激突した。

「ここまでは想定通りだろう? 手詰まりになれば、出てくるに違いない」

アベルが呟く。

それは、現状が、鎮圧軍本陣が想定していた状況であると推測しての言葉だ。

特に作戦を聞いたわけでもないが、国王としてそれなりの戦場経験をしているため、戦の進み具合から、想定通りか想定外かくらいは分かるようになった。

「ええ、出てくるでしょうね。幻人」

涼が、アベルの呟きを受けて答える。

むしろ、幻人が出てきてからが本番だ。

そして……。

敵の陣から飛び立った一人が、鎮圧軍本陣の前に降り立った。