軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0572 事情説明

「リョウ、ちゃんと休まなくていいのか?」

「大丈夫ですよ。アンダルシアの背の上で休んでいますから」

アベルの心配そうな言葉に、涼は大きく頷いて答える。

少し心配そうな声を出すアンダルシアにも、首を優しく叩いて大丈夫だと伝える。

実際、ポーションが効き、傷は治っている。

ただ……。

「血を流し過ぎました。水属性魔法で応急処置はしたんですけど、臓器の損傷が複雑で……。氷の膜だけでは完全には血が止まり切らなかったのかもしれません」

「いや、戻ってきた時は、首にも切傷があったぞ?」

「ああ、それは相手の突きを、頭を横に倒しながら突っ込んでいったからですよ。たいして深い傷じゃありません」

「すげえな……」

涼の説明を聞いて、アベルは頭の中にその光景を浮かべる事ができたのだろう。

小さく首を振っている。

しばらくすると、鎮圧軍は河原に入り休憩となった。

涼は地面に降り、氷の椅子に腰かけている。

傍らには、心配そうなアンダルシアがいるが、笑顔を浮かべてその鼻を撫でてやる。

大丈夫、大丈夫と何度も言いながら。

そんなところに、リュン皇子と供回りの者たちがやってきた。

「ロンド公、怪我をしたと聞いたが」

「ああ、殿下、お耳汚しでした。大したことはありません。ポーションで、傷は全て治っておりますし」

涼は立ち上がり、笑顔で答える。

「我々はこれから戦場に向かうのです。その前に怪我をされるなど……」

供回りの一人ウェンシュ侍従だ。

やはり、涼は嫌われているようだ。

「やめぬかウェンシュ」

「いいえ、殿下、これは言わせていただきます。ロンド公は殿下の相談役で、噂では殿下を守るために従軍されているとか。それですのに怪我をされ、肝心な時にいらっしゃらないようなことになれば……」

「やめよと言っている!」

リュン皇子が語気荒く言うと、さすがにウェンシュ侍従も言葉を切った。

涼は、何も言えず、苦笑いの一歩手前だ。

ウェンシュ侍従が言っているのも分かるし……かといって、避けようのない災難というものもあるわけで。

そんな時。

何の 脈絡(みゃくらく) もなく、彼らのすぐ近くに黒い空間が現れた。

四メートル四方の 漆黒(しっこく) の空間。

『門』といえば通じるだろうか。

そこから出てきたのは当然悪魔……。

「リョウ、すまんかった!」

その悪魔は出てきざま、涼に謝罪した。

もちろん、悪魔レオノールだ。

「いつもいつも突然ですね。それに、なんでレオノールが謝るんですか?」

「あの二人がリョウと戦ったと聞いて。しかも 怪我(けが) をしたであろう? あやつらは、ぶん殴っておいたから」

レオノールにげんこつで頭を叩かれ、二人ともたんこぶができている様子を簡単に思い浮かべる事ができてしまう涼。

苦笑するしかない。

だいたい 殊勝(しゅしょう) な言い方をしている目の前のレオノールだが、彼女は涼を殺したがっている。

それに比べれば、怪我をさせるくらい、おとなしいものだと思うのだ。

だが、あえてそこには触れない。

「なら今から戦おうぞ」などと言い出しかねないので……。

悪魔は、変わった者が多い。

「それでお 詫(わ) びと言ってはなんだが、何か欲しいものはないか? 何でもいいぞ、取って来てやる」

「以前も言いましたけど、別に欲しいものとかない……」

「そうだ、以前は、王国はどうかと言ったらいらないと言ったよな? なら、この東方諸国はどうだ? 一時間もあれば、全ての王族の首を取ってきて、リョウに捧げよう」

「いえ、ですからいらないと」

レオノールが王族の首を取ってきてと言った瞬間、リュン皇子が動いたのが、涼の目の端で認識できた。

さらに、ウェンシュ侍従も。

だが、その二人の 袖(そで) を強く引っ張って、何度も激しく首を振っているルヤオ隊長。

ルヤオ隊長の顔色は真っ青で、涙すら浮かべている。

「ああ……レオノール、こちら、その東方諸国一の大国、ダーウェイの皇子様です。ですから、 不穏(ふおん) なことは言わないでください」

「む? そうか。それは驚かせてしまったか? 大丈夫、リョウがいらんと言ったから、我は何もせぬ。だが、このままでは借りを作ったままになる」

「さて……別にあなたに貸しを作ったとは思っていませんけど……。まあ、いいです。でも欲しいものとか、本当に無いんですよね」

涼は、決して物欲が無いわけではない。

自分で努力して手に入れたいものはいくつかあるが、手段を選ばず、悪魔に魂を売ってでも欲しい……いや、今回は売らなくても良さそうだが……そんなものは思い浮かばない。

以前だったら、連合の人工ゴーレムを一体 鹵獲(ろかく) してきてと言ったかもしれない。

しかし涼も、三年の間に、王立錬金工房に残されていたフランク・デ・ヴェルデのゴーレム関連資料を読み込んだ。

そのために、今は本物が無くとも別に問題ない。

涼が目指すゴーレムは、また違うものだし……。

「とりあえず何か考えておきますから、今日のところはお引き取りください」

「むぅ……やむを得んか。顔色も悪そうじゃしな。リョウ、またな」

そう言うと、来た時同様、さっさと帰っていった。

しばらくは誰も喋らない。

皇子とその一行は、理解が追い付いていないのだろう。

涼も、特に何も言わなくてもいいかなと勝手に思っているし。

そんな中、真っ先に口を開いたのは、涼に突っかかる彼だ。

「ロンド公、今の 不敬(ふけい) な者は……」

「馬鹿かお前! 黙ってろ!」

口を開いたウェンシュ侍従を 面罵(めんば) したのは、魔法砲撃隊のルヤオ隊長であった。

涼も、気が強そうな女性だとは思っていたが、今の言葉にはびっくりした表情になる。

上流階級の、皇子の供回りの者の口調ではない。

本当に、心の底から怒り、怒鳴りつけたのだ。

「……」

ウェンシュ侍従も驚いたのだろう。言葉が続かない。

彼だけでなく、誰も言葉を続けられない。

だがさすがに、リュン皇子にまで視線を向けられ、ルヤオ隊長も説明をした方がいいと感じたようだ。

「先ほどの存在は、人が関わっていいものではありません。会ったこと、そのものを忘れるべき存在です」

ルヤオ隊長は、はっきりとそう言い切った。

若干、まだ顔色が悪い。

魔法使いだからだろう。

説明されずとも、悪魔レオノールが、 尋常(じんじょう) な者ではない事を理解したようだ。

「ルヤオ隊長のご 慧眼(けいがん) 、恐れ入ります」

涼はそう言うことで、ルヤオ隊長が言うことが事実であることを追認した。

「忘れた方がいい……?」

「彼女たちは、 世(よ) の 理(ことわり) の外にいる者たち、と言いましょうか。一時間で東方諸国を制圧するというのは、おそらく事実でしょう。それも、王族の首をとって回るのに時間がかかるだけで、ただ滅ぼすだけなら十分ほどでしょうか」

「そんな存在が……」

「ええ、そんな存在があり得るのです、この世界には」

リュン皇子は言葉を失い、涼は一つ頷いた。

『ファイ』において、人は強者ではない。

リュン皇子一行が本陣に去った。

「皇子はショックを受けていました」

「仕方ない。そういう事もある」

涼の指摘に、肩をすくめるアベル。

「アベルも、初めて知った時はショックを受けましたか?」

「あ~、俺の時は、すぐにリョウとレオノールの戦闘を見ただろ? ショックというより、凄いものを見せられているという……言葉は悪いが感動をしたかな」

アベルは自覚していた。

あの戦闘を見たおかげで、自分が剣士として一段上のレベルに上がったということを。

人は、ただ見るだけで、強くなることもあるのだ。

「アベルにしては殊勝なもの言いです」

「俺にしてはって何だ、俺にしてはって」

「だって、アベルじゃないですか。アベルと言うのは、 傲岸不遜(ごうがんふそん) 、 残虐非道(ざんぎゃくひどう) と同じ意味を持つと思うんです」

「持つわけあるか!」

アベルがつっこむと、涼はにっこりと笑った。

それはもう、素晴らしい笑顔で。

「何だ?」

その笑顔を、さすがにアベルが 胡乱(うろん) げな視線で見る。

「これですよ。やっぱり僕はボケて、アベルがつっこむのが一番です」

「また意味の分からんことを……」