軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0559 情報収集

涼、アベル、ワンア・シーの三人は、『龍泉邸』に戻ってきた。

そろそろ、 御史台(ぎょしだい) からの報告を、リーチュウ隊長が持ってきてくれる時刻だったからだ。

三人が着くと、すぐに 白焔(はくえん) 軍のリーチュウ隊長が到着した。

涼とアベルが借りている部屋に、涼とアベル、リーチュウ隊長の三人が入る。

ウェイ・フォンらには、涼とアベルの責任で伝える、ということになっているのだ。

もちろん、ワンア・シーも入れない。

だがワンア・シーは、この間に先ほど経験した梅林苑でのことを歌にしたいということで、『龍泉邸』から提供されている部屋に嬉しそうに籠もっていった。

頭の中に、曲が 溢(あふ) れてきているのかもしれない……。

「結論から言うと、シャウ司空の見立てとしては、マタン伯が操られていたのは間違いないだろうということです」

「よしっ」

リーチュウ隊長が言うと、涼が小さくガッツポーズを決めた。

これで、調査責任者を味方にできた……その確信を得たが故のガッツポーズだ。

「証拠についても、服の内側から、ごく微量ですがボーランタの毒が検出されたとの事です」

「例の、操るためのやつだな」

リーチュウ隊長の報告に、今度はアベルが頷いた。

取り調べは、悪くない方向に向かっているようだ。

「それから、剣を奪って襲いかかった時のマタン伯の記憶は無かったそうです。これは、ボーランタの毒が使われた場合の特徴の一つでもあるので、仕方ないだろうと。あと、その際に剣を奪われた禁軍の兵士なのですが……」

ここでリーチュウ隊長は言いよどむ。

涼もアベルも眉をひそめた。

あまり嬉しくない報告がありそうだ。

「昨晩、 牢(ろう) の中で首を吊って自殺したそうです」

「なんと……」

「マジか……」

リーチュウ隊長の報告に、涼もアベルも小さく首を振った。

そこで、涼が確認する。

「それは……本当に、自殺だったのでしょうか? 偽装された殺人とかは……」

そう、よくある手だ!

関係者の口封じ!

「正直、それは分からないと。自殺を疑うのに不審な点は無かったそうなのですが、その兵士は、昨日の聴取ではかなり積極的に話したそうなのです。それなのに、今さら自殺というのも、と」

「なるほど。で、昨日の聴取では、どう答えていたんだ?」

「マタン伯が剣を奪う直前に、兵士は、手足に力が入らなくなったのだそうです。それで床に崩れ落ちて、そこからマタン伯が剣を奪っていったと」

「ふむぅ」

リーチュウ隊長の説明に、何とも言えない表情になる涼。

普通に考えて、毒というか痺れ薬的な何かで力が入らなくなったと考えるのが、筋が通る。

だが、これらはどう考えても……。

「マタン伯周りは、いずれは 露見(ろけん) する手法ばかりだな」

アベルがはっきりと言い切った。

つまり、マタン伯に罪を着せて追い落とすのが狙いと言うわけではなく、一時的でもいいから表舞台、第六皇子リュンの結婚関係から外すのが目的であろうと。

「今日あった公主様を害するつもりだった、あれが狙いだった可能性が高いということですね」

「ああ、俺はそう思うな」

涼が確認し、アベルは頷いた。

「あの……公主様を害するとは?」

リーチュウ隊長は、まだ今日起きた事を知らない様子だったので、二人は説明してあげた。

「なるほど……確かに、それが狙いだった可能性は高いですね」

リーチュウ隊長は、頷く。

「だが……根本的な問題は残ったままなんだよな」

「何ですか、根本的な問題って?」

アベルが首を傾げ、涼が問う。

「なぜ、シオ・フェン公主が狙われるのかだ」

「ああ、確かに。こう言ったらあれですけど、別に公主様が亡くなっても、ダーウェイ内では何も問題ないでしょうしね。第六皇子リュンさんも、悲しみはするかもしれませんけど、別にそれだけでしょう?」

涼の無情な感想に、アベルは顔をしかめながらも頷く。

涼の言うことはもっともだからだ。

リーチュウ隊長が言葉を続けた。

「そう、私もそう思ったのですが……バシュー伯の事を思い出して、もしやと考えたことがあります」

バシュー伯とは、ロシュ・テンの事だ。

今回、マタン伯フォン・ドボーに襲われてしまったが……。

「バシュー伯は、第六皇子リュン様の新居設営相談役です」

「ああ、そう聞いたな」

「ですが、それは実はおかしいのです」

「どういうことだ?」

アベルが問う。

涼も首を傾げる。

「一般的に皇子たちは、正妃を迎える際に、皇宮内に別邸を与えられます。それまで、いわば部屋住みだった皇子が、まあ一人前になったというしきたりでしょうか。そこから、功績をあげて親王に進むと、皇宮外に王府と呼ばれる広い屋敷を構えることになります。例えば第四皇子ビン親王であれば、ビン王府を構えておいでです」

「ふむふむ」

「ですが今回、バシュー伯が設営されるのは皇宮内の別邸ではなく、皇宮外の広大な土地への屋敷なのです」

「なんですと……」

リーチュウ隊長の説明に驚く涼。

皇宮外の屋敷ということは、第六皇子リュンは親王になる……可能性があるということだろうか。

「皇子を親王に進ませるのには、条件か何かあるのか?」

「正妃がおいでである事……だけですね。最終決定は皇帝陛下が下されます」

アベルの問いに、首を傾げて考えながらもはっきりと答えるリーチュウ隊長。

「親王になると、皇位継承の争いに加わることになります……よね」

「ええ、そうなります」

涼の問いに、頷いて答えるリーチュウ隊長。

つまり、婚礼前にシオ・フェン公主が亡くなったりすると……。

「第六皇子リュンは、親王にはなれない」

「いずれ、新たに正妃を 娶(めと) ることになるでしょうが……しばらくはそうですね」

アベルの確認に、再び頷くリーチュウ隊長。

「少しずつ見えてきたか?」

「そんな気がします」

アベルと涼にも、ようやくシオ・フェン公主が襲撃される理由が分かってきた。

「確認するのに一番確かなのは、皇帝陛下に直接尋ねることでしょうね。第六皇子リュン様を、親王に上げるおつもりですかと」

「そうだが……さすがにそれは現実的ではないだろう。たとえ、ミュン船長とかが尋ねたとしても、答えないだろう?」

「となると……」

「ああ、新居設営相談役に聞くしかないな」

「バシュー伯……ロシュ・テンさんですね」

アベルと涼は顔を見合わせ、同時に頷いた。

「すいません、ちょっとロシュ・テンさんの宿に行ってきます」

バシュー伯ロシュ・テンが泊まっているのは、聖帝広場に面した『月下宴亭』だ。

前回は、裏に回ってこっそり入ったが、今回はその必要はないだろう。

きちんと正面玄関から、名前を名乗って取り次いでもらった。

「ああ、お二人ともこんにちは。ちょうど今、御史台の聴取が終わったところなんですよ」

ロシュ・テンは笑顔で言う。

襲われた昨日に比べて、全然表情が違う。

「体調も戻ったようでなによりだ」

「すぐにでもお仕事に復帰できそうですね」

「はい。明日から、復帰しようと思っています。まあ、私がいなくとも、問題なく進んでいるとは思うのですがね」

アベルも涼も復調を喜び、ロシュ・テンもすぐに現場復帰のつもりらしい。

話が、ロシュ・テンの現場についてになったところで、二人は切り出した。

「実は先ほど、シオ・フェン公主が危ない目にあわれました」

「なんですって!」

さすがにまだ、梅林苑での事は耳に入っていなかったらしく、ロシュ・テンは驚く。

そのため、涼がかいつまんで説明した。

「なんとも……メゾ伯は、まあ、あまり他の方の悪口は言いたくないですが……」

ロシュ・テンのその言葉だけで、メゾ伯が少なくとも高潔な人物とは思われていないのは分かる。

「それで我々は、一つの仮説を構築しました」

「仮説?」

涼の言葉に、首を傾げるロシュ・テン。

「一連の……それこそボスンター国にいた時からのシオ・フェン公主への襲撃は、第六皇子リュン様の結婚を 潰(つい) えさせるのが目的ではないかと」

「……ふむ?」

「リュン様は正妃の婚礼をあげられなければ、親王になれません」

「ん? 今のところ、リュン様を親王にという話は、どこからも出ていないはずですが?」

「はい。ですが、新居は皇宮外にお屋敷が建てられるとか」

涼が探るように言うと、ロシュ・テンは目を見開いた。

「驚きました、よくご存じで」

「それで、親王に上がるのではないかと……」

「ああ、なるほど」

ロシュ・テンは苦笑しながら頷く。

「確かに、そこだけ聞けば誤解されるのは分かります」

「誤解?」

ロシュ・テンの言葉に、涼が首を傾げ、アベルも首を傾げる。

「確かに、新居は皇宮外に造るようにと、皇帝陛下の命で造っております。ですが、大きさが大きくありません」

「王府を構えるほどではないと?」

「ええ。お二人は……親王が構える王府については、どれほどご存じで?」

「ほとんど知らん」

「ええ、全然知りません」

ロシュ・テンは一つ頷くと、説明を始めた。

「王府とは、親王が構える、小さな独立府です」

「独立府?」

「城といってもいいくらいです。ただの居住地ではなく、その敷地内には兵を養い、食客をはじめとした人材を養い、人の動かし方、地の治め方を経験するための場所です。そのため、王府の敷地は広大なものとなります。そうそう、お二人が泊まられている宿は、『龍泉邸』ですよね?」

「うむ」

「あそこは、三代前の皇帝陛下の治世中、親王の一人が王府を構えた土地……の一部です」

「あれで一部……」

「あれの五倍から十倍ほどだったとか」

ロシュ・テンの言葉に、絶句する二人。

確かにそれは、『屋敷』などというものとは規模が違い過ぎる。

「で、私が設営を担当しておりますのは、あくまで屋敷です。確かに、皇宮で正妃を迎えてすぐの別邸に比べればかなり広いですが、王府と呼ぶ規模には全く足りませんよ」

ここで、ロシュ・テンは一度お茶を啜った。

そして、少しだけ表情を改めて言葉を続けた。

「と、普通の方への説明はここまでになります」

「普通の方?」

アベルが問う。

「ですが、お二人には、さらに情報をお伝えします。第六皇子リュン様の屋敷には隣接して、いくつもの空き屋敷、空き地がございます。もしそれら全てを更地にし、お屋敷に繋げれば、王府と呼んでも 遜色(そんしょく) ない広さとなるでしょう」

「なんですと……」

ロシュ・テンの追加情報に、驚く涼。

「その場所に第六皇子の屋敷を建てるように言ったのは……」

「もちろん、先ほども言った通り皇帝陛下です」

アベルの問いに、ロシュ・テンはしっかりと頷きながら答えた。

皇帝の頭の中には、いずれ第六皇子リュンを、親王に上げる計画があるのかもしれない。

それはつまり、今以上に陰謀の 渦中(かちゅう) に投げ込まれるということ……。

「公主様も、本当に大変なところに嫁いでしまわれました……」

涼の呟きは、誰の耳にも届かなかった。

その日の夜。

第四皇子ビン親王のビン王府。

「愚か者が!」

「申し訳ございません……」

怒鳴りつける二十代前半の青年。

両膝をついて謝罪するメゾ伯。

「もうよい! 出ていけ!」

青年が吐き捨てるように言うと、メゾ伯は逃げるように部屋を出ていった。

青年は王府の主。

すなわち、第四皇子ビン親王その人である。

顔貌は秀麗といってもいい造りなのだが、多少神経質に見える。

顔をしかめ、部屋の中を歩き回っている。

「リンスイ、お前の策に乗ったがこのありさまだぞ!」

「はい……力不足を恥じております」

ビン親王の責める言葉に、深々と頭を下げて謝罪するリンスイ。

だが、下げられた表情を見る事ができる者がいたら、驚いたに違いない。

リンスイは笑っていたからだ。

リンスイは、ビン親王の右腕と認識されている。

ビン親王も、そう認識している。

叱責(しっせき) してはいるが、それはある種の甘えといえる。

信頼しているが故の甘え。

だが、リンスイの笑みを見ると……。

「それで、次の策はあるのか? このままでは、リュンが親王に上がるぞ」

「婚礼は明日ですので、もう止められないでしょう。シオ・フェン公主が正妃となってしまえば、その後に亡くなられても意味がありません。正妃を娶った、という事実はでき上がりますので、親王となる条件はそろいます」

「だから聞いておる! 次の策は何だ」

「リュン様を直接葬る以外には、止める方法は無いかと」

「な……んだと……」

リンスイの献策に、さすがのビン親王も絶句する。

もちろんそれは、弟を殺すのか、などという肉親の情ゆえではない。

ビン親王とリュン皇子は、父はもちろんどちらも現皇帝だが、母は違う。

年齢は比較的近いが、仲良く育ったというわけでもない。

絶句したのは単純に、『皇子殺し』という問題ゆえだ。

当然、発覚すれば極刑となるだろう。

しかも、他の第二皇子、第三皇子は、常にビン親王の動向を探っている。

ビン親王が、他の二人を探っているように。

皇子殺しに動いて、発覚しないでいられるか……?

「腹案がございます」

リンスイが、落ち着いた声音で言った。

その落ち着きが、ビン親王の 昂(たかぶ) った感情を鎮める。

「分かった。計画を進めよ」

ビン親王が言ったのはそれだけだ。

内容は聞かない。

問いかけもしない。

信頼ゆえでもあるが、知らない方がいいこともある……そのことを知っているからだ。

再び、深く頭を下げたリンスイが、ビン親王から見えない位置で、今度は 禍々(まがまが) しい笑みを浮かべていたのは、誰も見ることはなかった。

同じ夜。

皇宮内シオ・フェン公主の臨時別邸。

ようやく全ての日程が終了し、お茶を囲む三人。

シオ・フェン公主、侍女ミーファ、公主護衛隊長ビジス。

明日には婚礼の儀があり、そこからいくつもの儀式が続く。

最後は、帝都民へのお披露目までかなりハードな日程だが……。

「日程が立て込んでいるのはいつものことです」

シオ・フェン公主は笑いながら言った。

小さい頃から、公主として組み立てられた『日程』をこなすのが当たり前だった。

その経験からすれば、特に難しいわけではない。

ただ今回は、命を狙われることが多いというだけだ。

「とはいえ、梅林苑では驚きました」

シオ・フェン公主が言うと、ミーファとビジスは頷いた。

「まさか、アベル先生とリョウ様が現れるなんて」

「そ、そっちですか?」

「暴漢たちではなくて?」

シオ・フェン公主の言葉に、ミーファとビジスが驚く。

「襲撃されるのはいつものことでしょう? それより、お二方の登場の方が驚きですよ」

事も無げに言うシオ・フェン公主。

「まあ……驚いたのは確かですが」

「連絡先を聞き忘れました」

ミーファが驚きに同意し、ビジスが不手際を嘆いた。

「あの状況では仕方ないでしょう。でも、お二方とも帝都に着いていたことが分かって良かったです。落ち着いたら、屋敷を訪ねてこられたらいいのですけど」

「皇子様のお屋敷になりますので、簡単には訪ねてこられない気が……」

「門番に止められる気が……」

シオ・フェン公主の希望に、常識的な答えをするミーファとビジス。

「でもお二人なら、排除しながら入ってくるのではないかしら?」

「それはそれで問題が……」

シオ・フェン公主が笑いながら言い、ミーファが小さく首を振った。

その時、扉の外から声が聞こえた。

「公主様、リュン皇子がみえられました」

「え?」

さすがのシオ・フェン公主も、想定外のことに驚きの声をあげる。

知る限りにおいて、婚礼前夜に夫が妃の元を訪れる慣習はダーウェイには無かったはずだ。

むしろ、国によっては 禁忌(きんき) とされる。

とはいえ、断る事はできない。

「お通しして」

「公主、このような時分に申し訳ない」

「いえ、殿下、構いません」

二人が挨拶を交わすのと同時に、侍女ミーファと公主護衛隊長ビジスは部屋を出た。

部屋の中は、第六皇子リュンとシオ・フェン公主の二人だけだ。

「時間も時間なので、伝えたい事だけ。明日の婚礼の前に、どうしても知っておいて欲しかったのだ」

「はい」

リュン皇子は、一度深く息を吸った。そして吐く。

正面からシオ・フェン公主を見た。

その表情は、驚くほどしっかりしている。

正直、シオ・フェン公主がリュン皇子に抱いていたイメージは、愚かではなく鈍くもないが、優柔不断であまり積極的ではないというものであった。

それはもちろん、耳に入ってきた情報からのイメージの構築だ。

会ったことはあっても、軽く言葉を交わした程度。

きちんと話すのも、実は今、この瞬間が初めて……。

だが……。

その改まったリュン皇子の表情を見ただけで、シオ・フェン公主は認識を改めた。

伝わってきていた皇子像は、間違いだと。

おそらくは、皇位継承に巻き込まれないようにするために、無能なふりをしていた……。

リュン皇子は、ゆっくりと、だがはっきりと口を開いた。

「私は、親王に進み、皇太子、そしてその先の帝位を目指す」

シオ・フェン公主が驚いたのは一瞬。

「承知いたしました」

恭しく頭を下げる。

「先日、皇帝陵において、歴代の皇帝陛下にも決意をお伝えしてきた。公主には苦労をかけると思う」

「お気になさらずに。私は、殿下をお支えいたします」

決意みなぎる表情のリュン皇子と、笑顔を浮かべてその決断を支持するシオ・フェン公主。

未だ婚姻前ではあっても、この時、二人の心は結ばれたのかもしれなかった……。

同じ夜、『龍泉邸』の食堂。

吟遊詩人ワンア・シーによる新歌、『梅林苑の暴動』が歌われていた。

これは、『ナイトレイ王国の歌』のような定番歌ではなく、いわば時事ネタのような、最近起きた事を歌にして披露するというものだ。

だが、そこで聞く者のほとんどに、梅林苑で何か起きたらしいというのは聞こえてきていた。

しかし耳に入ってきていたが、実際にどんなことが起きたのかは知らない。

そのため、全員が聞き入っている。

本当に興味深そうに。

もちろん、約二名を除いて。

「アベル、なんというか……すごく恥ずかしいのですが」

「リョウ、それは全く同感だ」

『梅林苑の暴動』では、もちろん涼もアベルも実名で登場する。

だからこそ、臨場感のある歌になる……そう、それは分かるのだが……。

二人は、もの凄く活躍する。

だがこの二人は、歌われることには慣れていない。

「やはり、この歌も禁止令を……」

「うむ、検討してみよう」

公爵がそそのかし、国王がのっかる。

もちろん、二人の企みは成功しないのだが……。

翌朝。

涼が何かに気付いたように頭を上げた。

「どうした?」

「見知った人たちが五十人ほど表に来ているようです」

「は?」

涼の答えは、アベルにとっていろいろ意味不明である。

見知ったというが、ここからはまず宿の表、つまり敷地の入口は見えない。

さらに、五十人ほどの知り合いの意味が分からない。

帝都に、そんな数の知り合いはいない気がするのだ。

しかも、それらがこんな早朝から『来て』いる?

「俺たちが目的とは限らんだろう?」

「ああ、確かに」

アベルの指摘に頷く涼。

だから、二人はゆっくりと準備を整えた。

今日、第六皇子リュンとシオ・フェン公主の婚礼の儀が、皇宮で行われる。

バシュー伯ロシュ・テンも参内するため、二人が情報収集に回れる場所は限られる。

「アベル、どうしますか? 聖帝広場辺りで、悪い人を締めあげて口を割らせますか?」

「うん、リョウの提案の中身が、全く意味不明だな」

涼が、古い暴力刑事ドラマ的なノリで提案し、アベルが理解できずに首を振っている。

ナイトレイ王国の守衛たちは、暴力的な方法で容疑者を吐かせたりはしないに違いない。

「それは、素晴らしい事です」

涼が、満足したように頷く。

なぜか偉そうに。

そして、二人は門をくぐって外に出た。

そこには……。

赤い縁取りのされた白い服を着た一団がいた。

白と赤のコントラストが、とても綺麗だ。

全員が、丁寧に髪を結いあげ、頭の上で小さな冠で留めている。

礼装のような服装と結い上げた髪、小さな冠の組み合わせは、いつ見ても絶妙と言える。

「白焔軍?」

アベルが呟いた。

涼は、<パッシブソナー>で分かっていたために驚かないが、おそらく彼らの正装であるこの服は、何度見てもカッコいいなと思う。

「おはようございます、リーチュウ隊長」

涼の方から挨拶した。

「おはようございます、ロンド公爵閣下」

リーチュウ隊長は、両手を胸の前で重ねる礼をとり、頭を下げた。

ダーウェイにおける、正式な礼の取り方だ。

見ると、リーチュウ隊長だけでなく、白焔軍五十人全員が、同じ礼をとっている。

リーチュウ隊長は、顔を上げてからはっきりと口を開いた。

「公爵閣下、皇帝陛下がお会いしたいのでお連れするようにと、我々を派遣いたしました」