作品タイトル不明
【3】神獣、クリームパンを盗む。
「こちらが、フィオナさんに住んでいただく部屋です」
俺が案内をすると、フィオナさんが目をキラキラさせている。ちなみに部屋の広さは1LDKである。
結局彼女には七階の角部屋に住んでもらうことにした。
──スマホを持ってないので、何かあった時に俺と部屋が近い方がいいと思ったからだ。
「素晴らしいわ! 手を翳しただけで自分の家に入れるだなんて。鍵いらずね」
そう言って上機嫌で部屋の中に入って行った。
きちんと生体認証出来ているようでホッとする。
「この冷蔵庫という箱の中に食べ物を入れると冷やせます。逆に温めたい時はこの電子レンジに食べ物を入れて下さいね」
クローゼットの場所や、お風呂の使い方を教えた後、日本の電化製品についても説明していく。
彼女は嬉しそうに頷くとベッドに横になった。
「はぁー。まさか追放されたのにこんなに素敵なところに住めるだなんて思ってもいなかったわ! カワグチさん、ありがとうございます」
「いえいえ。僕も七階──同じ階に住んでますので。何かあったら連絡くださいね」
俺はフィオナさんに挨拶をすると自分の部屋に戻って一時間くらいゲームをした後、就寝した。
◇◇
朝、コンビニにパンを買い行くと、フィオナさんが唐揚げちゃんTシャツと、コンビニで売っていたハーフパンツを履いて外を走っていた。
「おー、おはようございますー。何やってるんですか?」
俺が挨拶をすると、フィオナさんが頷く。
「淑女として身体が鈍らないように鍛錬しているんですわー!! オーホッホッホッ!!」
「おー、頑張って下さい」
俺はテキトーに励ますと、コンビニに入っていった。
「今日はおにぎりがいいな。ツナマヨとたらこと緑茶にしようっと」
暇なので面白いもんないかなぁと、コンビニの中をフラフラ歩いていると懐中電灯が目に止まった。
街灯とかないから結構辛いんだよな。
買っとくかー。
結局朝ごはんと飲み物の他に、懐中電灯と電池、最近気になっていた固めの四角いグミも買った。
「今日も平和だな。……ん?」
窓の外を見ながらイートインスペースでおにぎりを頬張っていると、遠くの方から白いキラキラしたでっかい塊が見えた。
その塊はだんだん近づいてきた。
どうやら、もふもふした毛並みのプードルみたいな犬だった。結構なデカさで、直径1メートル程はありそうだった。
……フィオナさんが走ってたから、凶暴な犬だったら危ないな。
そんな事を思っていたら、なんと犬がフラフラとコンビニの中に入ってきたではないか。しかも、パンコーナーを一心不乱に漁り出した。
あ、やばい。どうしよう。止めたいけど、デカいから噛みつかれたらやだな……。
犬を凝視していると、目の前に、マンション生成した時に出てきたタブレットのような画面が自動で出てきた。
『管理人権限:万引犯を発見。防犯レベル1作動。──実行しますか?』
そんなメッセージが出てきた。
……これって、犬が店内を荒らしたりしたら守ってくれるってことだよな?
そう思い、YESを選択する。
すると、いきなりけたたましい警告音が聞こえてきた。
ビー!! ビー!! ビー!!
なんだ?!
『──万引犯への攻撃を実行します』
見ると、犬がクリームパンを咥えて袋を開けたところでくりくりの目をこちらに向けて固まっている。
あ、可愛い。
───その瞬間。
床のタイルが開いて中から夥しい数の銃口が出てきて、それが犬の方に向いた。
ビリビリビリビリィイイイイイ!!!
え、えええええええええええー!!!!!?
どうやら銃からは弾丸ではなく、電気のようなものが放出されたようだ。
すると、何故か犬が日本語で叫んだ。
「い、痛い、痛い、痛い、ワシは神獣じゃぞー!!!!」
犬が動けなくなると、今度は犬のすぐそばの床から勝手にひもが出てきた。そして、まるで意思を持ったように巻き付いて拘束していく。
暫くすると、元の床に戻り、拘束された犬だけが情けない顔をして倒れこんでいた。
俺はそっと犬の前に進み出ると、目の前にしゃがみ込んだ。
「お前、捨て犬か? 腹減ってたのか?」
俺が話しかけると、穴が必死な顔でこちらを見てくる。
「違うっ! ワシは神獣じゃ! こう見えて山なんか簡単に吹っ飛ばせるんじゃぞ?! ──腹は減っておったがな! それに住むところもないが。……これは神の塔か? 物凄い力じゃ」
だが、その姿はどう見ても腹を空かせたでかいプードルにしか見えない。
俺はため息を吐くと、封の開いてしまったパンを五つほど、バーコード決済した。そして、袋を敷いてから犬の前におく。
「……ほら。買ってやったから。良かったら食え。──その代わり食い終わったら家賃の話、しような。住むところ、ないんだろ? 家賃さえ払えば、ここに住んでもいいぞ」
言葉が通じるのであれば、何者だろうと金も稼いでこれるに違いない。──つまり営業をかけるしかない。
「……ほ、本当か?」
そう言って、自称神獣がゴクリと生唾を飲み込む。
「ああ。その代わり、家賃、払ってくれよ? ──神獣なんだろ?」
俺が真顔でいうと、犬はブンブン尻尾を振った。
「よくわからんが、わかった!!」
本当にわかったんか、こいつ。
ばくっ!!
言いながら一口でクリームパンを食べ、あんぱん、メロンパン、コロッケパン、コーンマヨパンとあっという間にパンを食い尽くしていく。
「美味いっ!!もっとくれっ!!」
犬は食べ終わってブンブン尻尾を振り回している。
「──じゃあ、マンションを契約してくれ。何か金になりそうなもの、持ってこれるか? 金貨とか、宝石とか、希少なアイテムとかそういうものだ」
俺がそう言うと、彼はクリクリの目で俺を見てくる。
「わかった!!」
そう言って、犬もとい自称神獣は駆け出した。
「早めに帰ってこいよー」
俺は手を振って、再び食べかけのおにぎり食べ出した。
うん、やっぱり今日も平和だ。
そんな事を思っていると、フィオナさんが帰ってきた。
「はぁ、良い運動が出来ましたわっ! ──あら?カワグチ様。その食べ物はなんという食べ物ですの?!」
彼女は興味津々で俺のおにぎりを見ている。
「あ、これはおにぎりっていう食べ物で、僕の故郷のソウルフードなんです。ここに売ってますよ」
案内してあげると、フィオナさんは興奮した様子でおにぎりを物色し出した。
「まあっ!! 私も食べてみますわ。おすすめの味はありますか?」
「そうですね。初めてですと、エビマヨや、たらこ、ツナや鮭あたりですかね。五目も美味しいですよ」
俺がそう言うと次々とおにぎりをカゴに入れていく。
朝から5個食べるつもりのようだ。その他にも一リットルの紙パックのりんごジュースを購入していた。
二人で並んでおにぎりを食べる。澄み渡った空と赤ちゃけた大地のコントラストが雄大である。さながら、何年か前に旅行で行ったエアーズロックのようである。
……癒されるわぁ。
隣ではフィオナさんが美味そうにおにぎりを頬張っている。
「美味しいですわぁああ!! 明日から、毎朝これを食べることにしますっ!」
「それは良かったです。」
コンビニの中を静寂が包む。響くのはもっちゃもっちゃというフィオナさんがおにぎりを頬張る音だけだ。
……気まずい。
「あ、あのー。フィオナさんは徒歩で逃げてきたんですか? ということは、住んでいた街は割と近いんでしょうか? 隣国って言ってましたが」
近かったら暫くここでダラダラしたあと、気が向いたら観光に行こうかな……。
そんなことを考えていると、フィオナさんがおにぎりを飲み込んだ後、首を横に振った。
「うーん。結構遠いと思いますわよ? 追放された時ドラゴンにぶら下げられて、そのまま降ろされたんですの!!」
その言葉に俺は驚いて、目を見開いた。
「え、結構えげつないですね」
「ですわよねっ!! 本当にここにマンションがあって助かりましたわ!」
そんな会話をしながら俺達は朝食を食べ終えた。